機動戦艦ミネルバ/第四章 新型モビルスーツを奪回せよ
X[  水中深く沈んでいくSWS。  やがて大きな横穴が姿を現わした。  それは地下水脈であった。  オアシスは地下水脈を通して、大海へと繋がっていたのである。 「内陸部の湖には、地下水脈で大海に通じているものがあることを知っているのは 俺達だけだ。そして実際に航行できるのもこの艦のおかげだ」 「開発設計者は、士官学校在学中だったフリード・ケースンという人物らしいです けど……。一体どんな顔してるんでしょうね。機密情報扱いで顔写真が公開されて いませんので」 「そりゃそうさ。顔写真が公開されたら、拉致・誘拐される危険性が高くなるじゃ ないか。これだけ優秀な技術者を失えば大きな損失になる」  地下水脈を流れに任せて航行するSWS。 「まもなく海中に出ます」 「海に出たら、浮力調整を塩水モードに変更」 「海中に出ました。現在、カラコルム海を航行中」 「潜望鏡深度まで浮上」 「潜望鏡深度、深度十八メートルまで浮上」 「メインバラストタンク排水」  ゆっくりと浮上をはじめるSWS。  震度計の針が回って、十八メートルを指して止まった。 「十八メートルです」  潜望鏡を上げて、海上を探査をはじめる艦長。  海上はおだやかで波一つ見えず、艦影も水平線の彼方まで見られなかった。 「浮上!」 「見張り第一班配置につけ」  海上に姿を現わすSWS。  指揮塔のハッチを開けて出てくる艦長と副長、そして見張り要員。甲板からもハ ッチを開けて乗員が出てくる。全員が大きく深呼吸して新鮮な空気を身体一杯に取 り込もうとしていた。  換気装置が働いている音が微かにしている。原子力で動いており、空気清浄器を 使って、基本的には一ヶ月は換気の必要はないのだが、やはり外界の空気は新鮮こ の上ないのである。 「やはり海は良いな。これぞ船乗りという気分がする」 「砂の海とは大違いですね」 「そうだな……。さてと任務を遂行するか」 「はい」 「トライアス発射準備。一番だ」 「トライアス一号、発射準備」 「目標。バイモアール基地。ただし併設のカサンドラ訓練所は外す」 「了解。目標、バイモアール基地、カサンドラ訓練所は外します」 「目標セットオン。一号発射管、上扉開放」 「一号発射準備完了」 「一号発射!」  ガス・蒸気射出システムによって打ち出されたミサイルは、ある程度の高度に達 したところで、自身のエンジンに点火されて目標へと向かっていく。 「発射確認。目標に向かっています。到達時間二分十五秒」  のんびりと船乗り気分に酔いしれている艦長。 「いい風だな。戦争をしていることを、つい忘れてしまいそうだ」 「ミサイル、目標に着弾しました」 「基地を完全に破壊」  その時、見張り要員が声を上げた。 「艦影発見! 十七時の方向です」  すかさず副長が、双眼鏡を覗いて答える。 「ミサイル発射を探知されたのでしょう。こちらに高速で向かってきます」 「警報!」  艦の内外に警報が鳴り響く。  外に出ていた乗員が、一斉に艦内へと戻ってゆく。 「潜航!」 「メインバラストタンクに注水」 「潜蛇下げ舵、十五度」  艦首を下に向けて、潜航を続けるSWS。 「水平!」  ゆっくりと水平に体勢を直す。 「全隔壁閉鎖! 無音潜航」  各ブロックが閉鎖され、息を潜めて身動きしない乗員達。  その表情からは、 「艦長はやる気だ」  という雰囲気がうかがえる。
     
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