あっと! ヴィーナス!!(52)
ポセイドーン編 partー4 仲裁 「ゼウスの神殿へ行くには、二人の女神にやってもらおうか」 「ですが、我々には呪縛が掛かっております。移動の神通力がありません」  ハーデースの神殿でもそうだが、天上界以外の自分の領域でない場所では神通力は制限されるのが普通だ。 「おお、そうだったな。今解いてやる」  何やら仕草をすると、二人の女神の呪縛が解けた。 「ありがとうございます」 「それでは頼むよ」 「かしこまりました」  二人の女神が祈りを捧げると、弘美の身体はゼウスの神殿へと運ばれた。  突然、弘美たちが姿を現して驚くゼウスだった。 「おお、ファイルーZの姫君じゃないか」  ヴィーナスとディアナがいるのを見て、 「そなたらが連れて来たのか?」 「左様にございます」 「さて、一応要件を聞こうか」  斯々然々(かくかくしかじか)と説明する弘美。 「なるほど……。で、アテーナーの説得に応じるとして、当然儂にも利するものがあるのだろうな?」  と弘美を凝視するゼウス。 「そ、それは……」  言葉に詰まる弘美。  ゼウスの考えていることは予想できる。  それを弘美が受け難いことも分かっている。  しかし、海底神殿には囚われの愛ちゃんがいる。  その責任の根本が自分にあることも重々承知だ。 「分かった……好きにすればいいよ」 「そうか……約束だぞ」  しばらくして、ゼウスの元にアテーナーとデメーテルが呼び出された。  アテーナーは、最初の妻メーティスが身ごもった折に、その母体ごと飲み込んだのち、ゼウスの額から飛び出したと言われる女神である。パルテノン神殿に祀られているのがそれである。  デメーテルは、ゼウスの姉でもあるが、ポセイドーンを酷く憎んでいる。  その二女神を前にして、事の次第と説得を試みるゼウスだった。 「アテーナーよ。そなたはポセイドーンとの賭けに勝って、名を冠したアテーナイと呼ばれることとなった地に、パルテノン神殿を得た。ポセイドーンのことは許してやってくれないか?」 「なりませぬ! 我が神殿においての穢れた行為は言語道断である。許せるはずのものではない」 「そ、それはそうだろうが……なんとかならんか?」  しかし、答えるように激しく睨みつけるアテーナーだった。  こりゃだめだ!  と感じたゼウスは、デメーテルに言葉を振った。 「デメーテルよ。お主が告げ口をしたらしいが……」 「告げ口なんて、そんな言い方はしないでください。見たままを報告しただけです」 「ほんとうに見たのか?」 「私を疑うのですか?」  こちらも厳しく睨め付ける。  何せポセイドーンには恨みつらみ満載であるから、弁護側に回ることを期待するのは無理だ。  ゼウス、しばらく沈黙していたが、 「と、そういうわけだから。儂にはどうすることもできん」  あっさりと引き下がり、弘美に仲裁失敗を告げる。 「そうか……」 「ともかく、ハーデースの元に報告するがよい。愛君が解放されたなら、再び戻ってきてくれ。約束だからな」 「ああ……分かっている」  というわけで、海底神殿のポセイドーンに報告する一行だった。 「そうか……だめだったか……」  それを聞いてうな垂れるメデューサ。 「ともかく約束通り、愛君は解放しよう。それもこれも、すべて自らが招いたもの。潔く運命を受け入れよう」 「そうか……」  ほっと、安堵のため息を漏らす弘美だった。  これで、ともかくも愛ちゃんは助かり地上へと戻れる。  自分は……。ポセイドーンではないが、運命を受け入れるしかないだろう。  そもそもがファイルーZなどというものに名を連ねることとなったのがそもそもの不幸の始まり。  女にされるわ、あれやこれやされるや……。 「そうだな。この神殿を尋ねた記念に宝箱をあげよう」  と言うと、人魚に持ってこさせた。 「ちょっと待て! それってあれか? 乙姫の玉手箱って奴か?」 「玉手箱? なんか知らんが……その宝箱は、困り果ててもうどうすることもできない、という状況に陥ったら開けるがよい」 「やっぱり玉手箱じゃないか!」 「きっと役に立つから、持っていきたまえ。ついでだから、邪魔なアクアラングも持って行ってくれ」  ということで、強引に宝箱を持たされた。 「女神たちよ、よろしく頼む」 「かしこまりました」
     
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