あっと! ヴィーナス!!(34)
序章 前編  ここはイタリアはローマの美術館である。  深夜、そこへ侵入した二つの怪しい影。  キョロキョロと辺りを探っている。 「この辺りだと思うんだが……」 「あれじゃないか?」  広場の中央に設置された石像に駆け寄る。  それは、ギリシャ神話で語られるアポロンの石像だった。 「これだ!これに間違いない!!」  二つの影は頷くと、石像を台座から引きはがした。  突然、鳴り響く防犯警報の音。 「やべえ!急ぐぞ」  石像をヒョイと肩に担いで、運び出し始めた。  しかし、さすがに石像だけにかなり苦労しているようだった。  やがて聞こえてくるパトカーのサイレン。 「まずいな……」 「おい!あそこにあるのは、下水道じゃないか?」  広間の隅に、マンホールの蓋を発見する。 「よし、ここから逃げようぜ」  蓋を開けて、石像を慎重に下へと降ろす。 「蓋を閉めるのを忘れるな」 「分かってるよ」  下水管に設けられた側道を伝っていずこかへと消える二つの影。  ローマ郊外のとある洞窟。  夕暮れとなり、たくさんの蝙蝠(こうもり)が出入りしている。  その洞窟の奥の方に蠢(うごめ)く影があった。 「よっこらしょっと!」  抱えていた石像を地面に横たえる影。 「何とか警察をまいて逃げてこれましたね」  服の袖で汗を拭いながら安堵のため息を付いている。 「さてと……そいじゃ、取り掛かるとしますか」  傍らに置いていたバケツから、何やら取り出して石像に塗り始めた。 「ちょっと臭いですね」 「我慢しろよ」  それは、蝙蝠の糞だった。 「この方法で、本当に石化が解けるのでしょうか?」 「間違いないよ。冥界ジャンプで読んだ漫画に描いてあったぞ」 「それって確か……『Dr.石像』とかいう奴ですよね」 「おうよ。科学考証もかなり正確に描いているし、大丈夫だろう」  さらに蝙蝠の糞を塗りたくる。  石像の表面は糞だらけとなった。 「しかし……さすがに臭すぎます"(-""-)"」 「我慢しろよ」  そして、一時間が経過した。 「変化ありませんね」 「ああ……」  さらに、一時間経過。 「おかしいな……」  と言いつつ、懐から一冊の本を取り出した。 「Dr.石像で確認してみよう」  単行本だった。  本を最初から読んで、石化を解く方法を改めて確認を始めた。  石化解除薬は、硝酸と96度アルコールを3:7の割合で調合すると書いてある。 「やはり足りないようです」 「蝙蝠の糞だけではダメなのか?」 「でも石化した者が、強靭な意識を保てば硝酸だけでも可能と書いてあります」 「でもな……蝙蝠の糞が硝酸と言えるか?」  石化が解けない像を見つめながら、意気消沈する二つの影。 「このままじゃ、帰れませんね」 「ああ、手ぶらで帰るとハーデース様に叱られて、最悪ケルベロスの餌にされちま うぜ」 「ひええ!堪忍してください」  どうやら、この二つの影は冥府の神ハーデースの従僕のようである。 「何とかしなくちゃ。とにかくできうる限りのことをしようぜ」 「そうはいっても……」  石像をじっと見つめる二つの影だった。 「なあ、ところで催さないか?」 「何をですか?」 「実はずっと我慢してたんだよ」  といいつつ、ズボン?のジッパーを外した。  そして、おもむろに石像に向かって放射したのである。 「ああ!そんな事したら……いいんですか?」 「何もしないでいるよりましだろ?何でもやってみる以外ないだろ」 「それはそうですが……」 「ほら、お前も出せよ。溜まってるんだろ?」 「分かりました。やればいいんでしょ」  と、同じようにする。  神の従僕に生理現象があるのかは謎だが……。
     
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