あっと! ヴィーナス!!第二部
第三章 part-9
「油断したな……。まさか暴力を振るうとは思わなかったよ。可愛い顔している割には豪
傑のようだ。まるで巴御前だな」
「もう一度投げ飛ばしてあげようか?」
袖まくりして息荒い弘美。
「遠慮しておくよ」
と言いながら立ち上がり、椅子にかけ直す。
「まあ、落ち着きたまえ。腰を落ち着けて話し合おうじゃないか」
突然の出来事で面食らったようだが、気を取り直していつものアポロンの表情に戻る。
「愛ちゃんを返してくれるんだろうな」
「仕方あるまい。返してあげよう……。ただし」
というと、愛に向かって何やら仕草をした。
すると、愛の身体が石になっていき、やがて石像となってしまった。
「石像の愛だがな。あっはっはあ!」
高笑いするアポロン。
一度手に入れたものを、簡単に返してしまっては、神様としての沽券に関わる。
そして、反骨精神旺盛な弘美も、手なずけるのは困難であろう、
「おまえも石像になるがよい!」
と石化の神通力を掛けた。
身構える弘美。
しかし、何の変化も見せなかった。
「なぜだ?なぜ、石像にならない!?」
身振り手振りを繰り返し神通力を発動させながらも、石像化しない弘美に唖然とするア
ポロン。
と、その時だった。
「それは、彼女がファイル−Zの娘だからだよ」
神殿の奥から、荘厳な響きを持った声が届く。
振り返る一同。
そこには全知全能の神、オリンポスの最高神ゼウスの姿があった。
「ゼウス様!!」
ヴィーナスとディアナが同時に叫ぶ。
「ゼ、ゼウス……さま……?」
アポロンも意外な神の登場にうろたえる。
「アポロンよ。速まったな」
「こ、これには、訳が……」
「ヘラに命じられたか?」
「そ、その通りです」
「そこの愛もか?」
「これはただの石像ですが……」
「そうか」
とゼウスが指をパチンと鳴らすと、愛の石化は無論麻痺化も解けて元に戻った。
「弘美ちゃん!」
目を見開き弘美に駆け寄り抱きつく。
「よかった、よかった」
その身体を受け止めて、強く抱きしめる弘美。
「さて、申し開きを聞こうか、アポロンよ」
と詰め寄ると、アポロンの身体が石化した。
「ちっ!ヘラの仕業だな。口封じしたか……」
舌打ちするゼウス。
「仕方あるまい。その姿のまま、地上界で頭を冷やして来い」
ポンと肩に触れると、一瞬にして消えた。
そして、その姿はギリシャ時代のエーゲ海の海底へと深く沈んでいた。
やがて考古学者によって発見され引き上げられて、ローマ国立博物館に所蔵されること
となった。
「弘美そして愛。済まなかったな、神として謝罪する」
腕まくりする弘美。
「一発殴ってもいいか?」
「それは勘弁してくれないか」
慌てて手を前にかざして横に振るゼウス。
「で、ファイルーZとやらはどうするんだ?」
「それはそれ、これはこれ。ま、クレオパトラとかジャンヌダルクとかと同列に扱われる
んだ。栄誉と思って感謝して欲しいな。いずれ君は歴史を変えるような働きをすることに
なるのだから」
「いまいちピンと来ないんだが」
「念のためにはっきり言っておこう。ファイルーZは何もわたしの愛人にするとかいった
リストではないとだけ。ヘラは何か勘違いしているようだがな」
「本当だろうな?」
「インディアン、嘘つかない!」
「おまえも神夜映画劇場見てんのかよ!」