(七)性転換ウイルス!


(七)性転換ウイルス!


「社長! 例の研究が完成しました!」
 試験管を片手に飛び込んできた者がいる。

 おや?
 いつも飛び込んでくる研究員とは違うわね。
 そうなのよ。
 あの研究員の薬の副作用のおかげで、未だに女子中学生のままよ。
 ああ、そうそう。
 女の子として生活しているので当然、女の子らしい言葉使いや仕草をするように心がけているの。そうしないと気がゆるむと男性言葉になってしまうから。
 解毒薬が完成するまでは、ここへ来るなと言ってあるの。
 ふう……。
 ともかく……。
 この女子中学生の姿のおかげで、どんなに苦労したことか。
 私が黒沢英一郎だと言っても誰も信じてはくれなかった。
 それが、こうして再び社長の席に戻れたのは、祖母にして副社長の黒沢英子の力である。
 何とかなるだろうかと、祖母に相談に行ったところ、私の姿を一目見て、自分や母の若いときに瓜二つだということで、すぐに血液鑑定にはかってくれた。
 とまあそういうわけで、女子中学生ながらも社長業に復帰できたわけ。
 話を戻しましょう。

「あなたは、確か……。バイオテクノロジー研究所の所員ね……」

 思い出したわ。
 例の研究員が開発した「性転換薬その1」の体格や素顔も女性にしてしまう、改良バージョンの薬効成分を作り出す遺伝子を持ったバクテリアの開発をしていたはずだ。このバクテリアを大量増殖させて、薬効成分を取り出せば、性転換薬を安価に大量生産できるというものだった。
 細胞中にあるY染色体に働きかけて、これをX染色体に生まれ変わらせる作用を持っている。つまり X-Change である。
「はい。例の遺伝子操作による性転換薬生産バクテリアの創製に成功しました。この試験管にその『バクテリア X-Change-1』が入っています」
「ほんとう! ついにやったのね」
「はい。増殖力も通常の百倍以上に強化して生産性を増しています」
「性転換薬の大増産が可能ね。これで誰でも自由に性転換が可能になるし、我が社も儲けさせてもらいましょう」
 その時だった。
 インターフォンが鳴った。
『社長。バイオテクノロジー研究所から連絡です』
「繋いでください」
 バイオテクノロジー研究所からとは珍しいわね。
 だが、その連絡はとんでもないものだった。
『社長! 大変です!』
「どうしたの?」
『バイオハザートが発生しました!』
「何ですって! どういうことですの?」
『バクテリア X-Chang-1 の試験棟から、性転換遺伝子を組み込んだスーパーバクテリオファージが漏洩しました』

 スーパーバクテリオファージ(以降SBFと略する)は、当研究所が耐性菌治療のためにバクテリオファージ(以下BFと略する)の開発の中から生まれたものである。
 一般的なBFは、大腸菌をターゲットにするT−4ファージのように特定のバクテリアしか捕食しないので、これを上手く利用すれば、耐性黄色ぶどう球菌などの特定病原菌のみを捕食して、他のバクテリアや細胞を破壊しない、つまり副作用のない安全な治療ができるというものだった。
 ところがSBFは、どのようなバクテリアをも捕食する大食性を持つ突然変異種で、しかも細胞内に溶け込んで遺伝子を組み込む能力を持つλ型溶原生BFだった。何でも捕食するということは、バクテリアごとにそれぞれBFを用意する必要がなく、溶原生を利用して遺伝子の運び屋(ベクター)として、バイオ研究には最適だった。
 その第一弾の開発研究の中に性転換遺伝子研究があった。
 だが、伝染力がすさまじく取り扱いには厳重管理が必要だった。

 そのSBFが研究所から漏洩した!

「馬鹿な! どうしてそんなことになったの?」
『判りません、原因不明です』
「研究棟を完全閉鎖してください」
『もう遅いです。SBFはすでに研究所外に拡散してしまいました』
「冗談じゃないわ。SBFはものすごい伝染力を持っているのよ』
『は、はい! SBFは、各種の病原性ウイルスに取り付いて突然変異を起こし、性転換遺伝子を持った新たなる病原性ウイルスが次々と誕生しています。性転換遺伝子を持った風邪のウイルスやインフルエンザウイルスも発見されました。もう、手がつけられません』
「なんてこと!」

 もはやどうすることもできなかった。
 すでに全世界にSBFは伝染していった。
 性転換遺伝子を持ったSBFは、この世に存在する男性という男性を女性に性転換していった。
 恋人が突然女性になって最初は笑い転げていた女性達も、やがて事態の重大さに気づいて慌てふためいた。
 この世から男性が消えうせてしまったのである。
 つまり子孫を作り出せなくなってしまう。

 人類最大のピンチ!
 果たしてどうなるのか?
 救世主は現れるか?

 乞うご期待!


 ……って、このシリーズは本来読みきりで、連載じゃないんだけどね……。