特務捜査官レディー (響子そして/サイドストーリー)
(七十)事件解決  その書類には、磯部氏が響子さんの母親に分け与えた土地・家屋の譲渡に関する資 料や、その資産を不動産会社に転売された金の流れが記されていた。  内容を要約すると、それらの資産は覚醒剤で精神薄弱となった母親から実印や印鑑 登録証を取り上げて、売人の所属する暴力団が経営する不動産会社のものとなり、そ こから健児の経営する不動産会社へと巧妙に分割譲渡されたというものだった。  遺産を横取りした明白な事実を証明する書類を見せ付けられて体を震わせている健 児。 「どうした健児、寒いのか? それとも脅えているのか」 「くそっ!」  健児が鞄を開いて何かを取り出した。それが何かすぐに判った。  拳銃だ。銃口は磯部氏を狙っている。  やはり拳銃を持っていたか! 「おじいちゃん、危ない!」  響子さんがとっさに祖父の前に立ちふさがった。 「響子! どけ!」  磯部氏が響子さんを押しのけようとするが、響子さんは動かなかった。  パン、パン、ズキューン。  数発の銃声が鳴り響いた。  もちろんその銃声の一つは、わたしが撃ったものである。  スカートの中、ガーターベルトに挟んでいた、レミントンダブルデリンジャーを素 早く取り出して、健児の手にある拳銃を弾き飛ばしたのである。  続けざまに発射されたのが、敬の愛用のS&WーM29(44口径)からで、健児 の腕を貫いていた。  そして健児の発射した弾は、間一髪響子さんの肩口をかすめていた。わたしの撃っ た銃弾で銃口がそれたからだ。  銃声と同時に男性制服警官がなだれ込んでくる。  遺言状公開で親族全員が揃ったのを見届けてから、屋敷内に突入して大広間を完全 包囲するように打ち合わせしていたのだ。  健児を確保して安全が確認されるまでは、女性警察官には待機しているように命じ てある。  当然の処置である。女性には危険な任務には従事させることができない。 「医者だ! 医者を呼べ!」  磯部氏が叫んでいる。  拳銃を構えていた敬が、用心しながら健児に近づいて行く。  健児が身動きできないように確保して、拳銃を納め、代わりに手帳を取り出して、 「警察だ! 覚醒剤取締法違反容疑、ならびに銃砲刀剣類所持等取締法違反と傷害及 び殺人未遂の現行犯で逮捕する」  と手錠を掛けた。  健児を引っ立てて行く敬が話し掛けてくる。 「俺は、こいつを連れて行く。マキは後処理を頼む」 「わかったわ、ケイ。しかし、こいつ馬鹿じゃないの。日本人の体格で50口径の拳 銃が扱えると思ったのかしら。その銃の重さや反動でまともに標的に当てられないの に」 「ああ、しかもデザートイーグルは頻繁にジャミング起こすんだよな。50AEは判 らんが俺の所にある44Magは、リコイル・スプリングリングやらファイヤリングピ ン、エキストラクターやらがすぐ破損する。とにかくコレクションマニアは、何考え ているかわからん。とにかく破壊力のあるガンが欲しかったんだろ。こいつの家にガ サ入れに向かっている班が、今頃大量の武器弾薬を押収している頃だろう」  床に健児の撃った、デザートイーグル50口径が転がっていた。  健児が落とした拳銃を、ハンカチで包んで拾い上げて、鑑識に手渡す。  そしてわたしは、やおらあの特製の警察手帳を出して一同に見せて宣言する。 「警察です。みなさんから調書を取らせて頂きますので、このまましばらくお待ちく ださい。現在この屋敷にいるメイドは全員、女性警察官にすり替えてありますので、 そのつもりでいてください」  実情を知らされて納得している響子さんだった。  メイドの全員が初顔合わせなのを不思議に思っていたようだったからだ。 「こんなものが、鞄に入ってましたよ」  鑑識の一人が健児の持ち物を指し示した。 「注射器と……これは、覚醒剤だわ。これで奴の裏が取れたわね」 「三つの重犯罪で、無期懲役は確定ですね」 「そうね……」  こうして、昔年の恨みともいうべき因縁の健児を逮捕に至ったのである。  なんか……。  もっといろいろと言いたいこともあるのだが、言葉になって出てこない。  それだけわたし達の運命を弄んだ張本人のこと、言葉では尽くせない至極の思いが あるからである。
     
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

小説・詩ランキング

11