特務捜査官レディー (響子そして/サイドストーリー)
(六十九)遺言状公開  広い部屋の真ん中に、矩形にテーブルが並べられている。  一番奥のテーブルには磯部氏が座り、両側サイドのテーブルには親族が座っている。 そして一番手前には、きっちりとしたスーツを着込んだ弁護士らしき人物が三名座っ ている。  その一人は、弁護士に扮した敬だった。  上手くやってよね。  声にはならない声援を送る。  まかせておけ。  そう言っているように見えた。  響子さんの入場で、親族達は一様に驚いていた。  それもそのはず。  響子さんは、母親の弘子に瓜二つだというのだから。 「弘子!」  全員の視線が響子さんに集中している。 「そんなはずはない! 弘子は死んだ。それに年齢が違う」 「そうだ、そうだ」  そんな声には構わず祖父が手招きをしている。 「良く来たな。響子、儂のそばにきなさい」  テーブルを回りこむようにして、彼らのそばを通り過ぎて祖父のところまで歩いて 行く。  わたしも、しずしずと響子さんの後ろに付いていく。  弘子じゃないとすれば、一体この女は何者だ?  一同がそんな表情をしていた。  やがて磯部氏が事情を説明しだした。  目の前のこの女性が、まぎれもなく磯部ひろしであり、性転換して響子と戸籍を変 更したこと。  そして、その証拠である戸籍謄本。医師の発行した性同一性障害に関する報告書、 裁判所の性別・氏名の変更を許可する決定通知書などが公開された。 「つまり男から女になったというのね」  親族の一人が納得したように呟いた。 「そ、そんなことしたって、ひろしの相続欠格の事実は変わらないぞ。今更、出てき てもどうしようもないぞ」  早速、健児が意義を申し立てる。  そりゃそうだろうな。  磯部氏の財産を狙っているのだから、新たなる相続人の登場を快く思わないだろう。  この場に現れたのだから、なにがしかの財産が譲られるだろう事は誰にでも想像で きる。 「そうよ。健児の言う通りよ」  親族の意義申し立てとかには構わずに磯部氏は話を続ける。 「さて、この娘が儂の孫であることは、書類の通りに事実のことだ。その顔を見れば、 弘子の娘であると証明してくれる。儂が言いたいのは、相続人として直系卑属はただ 一人、この響子だけということだ」」 「それがどうしたというのだ」 「儂は、今この場で生前公開遺言として、この響子に財産のすべてを相続させる」  椅子を跳ね飛ばして、四弟の健児が興奮して立ち上がった。 「馬鹿な!」 「でも健児、遺留分があるから、すべてを相続させることできないんじゃない?」 「姉さん、知らないのかい? 直系卑属の響子に遺言で全額相続させたら、俺達の遺 留分はまったく無くなるんだよ。被相続人の兄弟姉妹には遺留分は認められていない んだ」 「ほんとなの?」 「そうだよ」  さっきから、何かにつけて意義を唱え続けている、四弟の健児。  さすがに、動揺しているわね……。  明らかに響子さんを拒絶する態度を示している。響子さんが性転換したひろしだと 紹介された時からずっとだ。 「まあ、落ち着け健児。先をつづけるぞ。では、儂の生前公開遺言状を発表する。弁 護士、よろしく」 「わかりました……」  三人並んだ中央にいた弁護士が鞄から書類入れを取り出した。 「それでは、公開遺言状を読み上げますが、これは正式には公正証書遺言となるもの で、遺言者の口述を公証人が筆記し、証人二人が立ち会って署名押印したものです。  なお、証書は縦書きになっておりますので、そのように理解してお聞きください。  読み上げます。  その内容は、ほとんどすべての財産を響子さんに譲り、兄弟には一人当たり金十億 円という示談金的な金額を譲るというものだった。  そして当の健児だけが、たった五百万円という額が相続されるとした。  もちろん健児が黙っているはずがなかった。 「馬鹿な! なんで俺だけが五百万円なんだよ」 「おまえは、弘子の遺産を譲り受けているじゃないか。それを相殺したんだ」 「弘子の遺産だと? そんなもん知らん」 「ならば、もう一つの調書を見てもらおうか」  弁護士が再び書類を配りはじめる。
     
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