特務捜査官レディー (響子そして/サイドストーリー)
(五十一)潜入  とある喫茶店の指定の席に腰掛けて、囮捜査に掛かる情報を持ってきたという人物 を、敬と二人で待っていた。 「ねえ、今更聞くのもなんだけど……、ニュースソースは確かなの?」 「あのなあ……。そういうことはもっと前にちゃんと確認するものじゃないのか?  ただでさえ、身の危険をともなうことなのに」 「だって……」  たしかに敬の言うとおりだった。  響子さんに酷い目に合わせた、覚醒剤・売春組織の情報が入手できたというので、 舞いあがっていたのである。  よし!  組織を壊滅してあげるわ。  ……てな感じで、猪突猛進だった。  喫茶店のドアが開いて、それらしき二人の人物が入ってきた。  敬が手を挙げて招き寄せる。  二人が、わたし達の席に合い席で座った。  早速敬が紹介をはじめた。 「紹介するよ、今回の捜査に協力してくれる金さんだ。例の勧誘員とはかつての親友 だったらしい」  金というと韓国か中国系の人かしら……。  金さんは、流暢な日本語で喋りだした。 「彼とは仲が良かったんですが、暴力団の組織に入っだけでなく、売春婦の斡旋なん かはじめて……。友として、女性を辱めるそんなことなんかやめろと何度も言ったん ですが……」  ちょっと中国系のなまりかしら……。 「というわけで、親友をこんな仕事から足を洗わせたいと情報をくれたんだ。その情 報を元に、こっちの捜査官が奴に引き合わせる役をやる」  もう一人の男性が挨拶する。 「どうも、都庁の春田です。よろしく」 「どうも……」  もう一人は、ちょっとよれよれの背広を着た、一見コロンボ刑事のような感じの男 性だった。  都庁の職員か……。  都道府県にもそれぞれ売春防止法に関わる部門があるわけだから。  まあ、いかにも刑事というような目の鋭い人物だとまずいのだろう。  というわけで、情報をくれたという人物が説明を始めた。 「彼は芸能プロダクションのアイドル勧誘員と称しておりますが、実際には売春婦の 斡旋業が本業です。若い女性に声を掛けては、スタジオ撮りと称してマンションに連 れ込み、覚醒剤を使って言いなりにさせて売春婦に仕立て上げるのです。  まずはその場で強姦生撮りAVビデオを撮影して、AV業界に売り渡します。まさ しく本人の同意を得ない無理矢理の強姦シーンを生撮りするわけです。泣き喚き抵抗 する女性達の本番生撮りですから臨場感抜群ですからね。バージンなんかだったりし たら「強姦! 処女の生贄シリーズ」とかいうタイトルのアダルトビデオは奴らの作 品ですよ。バージンなんてのは売春婦には無用の長物ですからね。  犯された挙句に、言う事を聞かないとこのビデオをばらまくぞと脅されて、泣く泣 く売春婦として働かされる場合もあるのです。まあ、結局はAVビデオとして売られ てしまうのですがね。それで言いなりにならない場合は、覚醒剤の虜にしてからとい うことになります」  以前にも内容を聞いたが、ほんとうにひどい話だった。  本番生撮り強姦シーンを撮られて、素人AV女優デビュー。  その後は覚醒剤の虜にされ、逃げることも適わずに売春婦とされてしまう。  そんな女性達が地下組織に捕われて、売春婦として調教され売られていく。  見逃すわけにはいかない。  誰かが組織を壊滅しなければ……。  そうよ。  このわたし……。 「それじゃあ、打ち合わせをはじめるぞ」  敬が切り出した。  その勧誘員に紹介する際の、こまごまとした打ち合わせをはじめるわたし達だった。  そして二時間後、わたしはその勧誘員に会っていた。  都庁職員の姪とということで、アイドルになりたいという設定だった。  芸能プロダクションの友達がいると金さんから聞いて紹介してもらおうとやってき たということになっている。 「金なら知っていますよ。僕の親友ですからね」  親友だった、の間違いじゃないの?  にしても、喋り方が丁寧だ。  まあ、女性を引っ掛けるのが商売だから、言葉使いには気をつけているのだろう。  都庁職員が、勧誘員に頼んでいる。 「……というわけで、姪っ子をアイドルにしてやってくれないか」 「ほう……」  じろじろとわたしの身体を嘗め回すように観察する勧誘員。 「何歳ですか?」 「24歳です」 「年食ってますね」  失礼ね!  そりゃあ確かに、アイドルとくれば二十歳未満だろうけどさ……。  それに実年齢も……。 「まあ、いいでしょう。で、いつから来てくれるのでしょう」  でしょうねえ……。  こいつの本当の目的は、若い女性を勧誘して覚醒剤の売春婦を探して組織に売り渡 すこと。  そこいらの売春婦程度なら、高校生・大学生でなくても大丈夫だから。  要はセックスができればそれでいい。  顔なんか、二の次三の次くらい。 「今からでも結構です」 「そうですか……」  呟くように言うと、携帯電話を取り出した。 「ちょっと芸能プロダクションに連絡を取ります」  言いながら、席を外した。  芸能プロダクション?  よく言うよ。  売春組織でしょう?  外へ出てどこかへ連絡している勧誘員の姿が、大きな店のガラス越しに見えている。  やがて、 「お待たせしました」  と戻ってくる。 「それでは早速スタジオに行きたいと思いますがよろしいですか? 芸能プロダクシ ョンに紹介するための写真を撮りたいと思いますので」  早速きたわね。 「はい、大丈夫です」  わたしは、立ち上がった。  さあ、囮捜査の開始だ!  どんなことになるのか……。  神のみぞしる。
     
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

小説・詩ランキング

11