純愛・郁よ

(二十五)結婚式  厳粛な教会様式の結婚式会場。  父親にエスコートされ、バージンロードを歩いて、俺のいる教壇の方へと静かに歩 いてくる郁。  そして俺の隣に立ち並ぶ。 「それでは……」  牧師の祝詞がはじまり、結婚式ははじまった。  それからのことは全然覚えちゃいない。  ただちらりちらりと垣間見る隣の郁がいつにもましてきれいだと感じていただけだ。  そうこうするうちに、指輪の交換から誓いのキスへと移る。  俺は、郁の顔を覆っているウエディングベールを捲くし上げて、ゆっくりと唇を合 わせる。  いつもやっていることではあるが、参列者大勢が注目している中では、さすがに緊 張する。その点、郁の方はじっと目をつむっているだけだから楽なもんだ。まあ…… 身長の差もあるし、ここは新郎がリードするのが自然なんだが……。  郁の母親が感激して涙を流しハンカチで目許を押さえている。  俺達のためにいろいろと骨を折ってくれた恩人だ。やはり結婚式を挙げて良かった と思う。 「……これをもって、武司さんと郁さんは、晴れて夫婦となりました」  会場全体が拍手喝采となり、俺達の結婚式はこうして終了した。  結婚して正式な夫婦となれば新居が必要になる。  郁との結婚を機に、以前からの約束通りに土地を分け与えてくれて、新築資金も貸 してくれることになった。その新居が出来上がるまでの間、郁の実家に間借りするこ とになった。  郁の部屋だったところが、俺達夫婦の部屋になった。 「しかしお母さんが言ってたけど、郁が膣拡張具を使って、ヒーヒー泣きわめきなが ら拡張しているところを、この目で見たかったな」 「あーん、ひどいよ。あたし、ほんとに痛かったのよ。武司のために頑張ったんだか らね」 「判ってるよ」  といってキスしてやる。  そんなに苦労して女になったことを黙っていたのは、恥ずかしかったか、俺に同情 させないやさしさからか、たぶんその両方だろう。  今でも膣拡張やっているのか、と聞きたかったが止めておいた。あまり精神的に追 い詰めることはしたくない。それにほとんど毎日しているからその必要もないだろう と思う。 「愛してるわ」 「ああ、茜と一緒にこれからもずっと一緒さ」 「うん。ずっとね」  そして抱き寄せようとした時、 「おぎゃあ!」  と茜が泣いた。 「たぶんおむつね」  ほとんど反射的に、茜のおむつ替えに郁は動いていた。  茜の馬鹿野郎!  幼児虐待者達の気持ちが良くわかった。はっきり言って、今の俺にはまだ、父性感 情はないだろう。それが発達するのはもう少し後だ。  女はすぐに母親になれるが、男はすぐには父親にはなれない。父性は子供を育てて いく過程で、少しずつ発達していくのだ。  郁は、楽しそうにおむつを変えている。排泄物が手に付いたりしても気にしていな い。手を洗えば済むことだ。  それが済むと、やおら乳房をもろ出しにしてお乳を与えはじめた。  茜を小憎らしく思うこともあるが、ああして幸せそうにお乳を与えている姿を見る につけ、母親の子供に対する愛情の深さ、母性本能の素晴らしさを実感せずにはおれ ない。  今回の事件はすべて、郁の母性本能を試す、神様のちょっとした悪戯なのかも知れ ない。そして合格として茜を遣わしてくれたのだ。  そう思うことにしよう。  それから三年後。  俺の執行猶予期間が過ぎ、保護監察からも開放されて、晴れて自由の身になった。  今日は茜の幼稚園の入園式だ。 「パパ・ママ。早く早く」  この俺にもすっかりなついた可愛い茜が叫ぶ。 「そんなに走ったら転びますよ」  郁もすっかり母親が板について、やさしい表情で茜を見つめている。 「パパーったら、早くってばあ」 「わかったよ」  郁と茜。  この世で唯一無二の愛する妻と娘だ。  生涯を掛けて守っていこうと思う。  後編 了
     
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