純愛・郁よ
(七)戸籍
ホテルの一室。
余韻に浸っている俺達。
思い出したように、郁が口を開いた。
「隣の奥さんに、子供はまだですかって、時々聞かれるの」
「だろうな。夫婦なんだから、子供を作るのは当然だと思われているさ」
「でもあたし子供できないよ」
「子宮も卵巣もないからな」
「ごめんなさい……」
「なんで、おまえが謝る必要がある。すぐ謝る悪い癖だ」
「だって、だって……」
どうあがいたって俺達は子供を作る事ができない。世の中には子供ができない夫婦
も多いからと慰めている。
「せめて養子はむりかなあ……」
「だめだよ。ちゃんと結婚した夫婦にしか認められていないからな」
「早く手続きが終わらないかな」
「戸籍変更か?」
「うん」
「それは、おまえが悪いんじゃないか。手続きで、本人自身が何度も出頭しなきゃな
らんのに、おまえがいちいち俺のところに帰っちゃうから、全然捗らないと、おまえ
のお母さんがぼやいていたぞ」
「だって、武司が隣にいないと安心して眠れないんだもの」
「しようがない奴だな。俺だって仕事があるから、そうそう実家に帰れるもんじゃな
いからな」
「判ってるわ、判ってるけど……」
本当は郁は子供を産みたがっている。女として自然の本能だ。しかし、現実は無理
だ。
だから精神的情緒不安定に度々陥る。
俺は、忘れさせるように、やさしく抱いてやる。
「ああ、武司。愛してる」
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