第九章・カチェーシャ
Ⅴ  司令官 =ヴィルマー・ケルヒェンシュタイナー大佐  副官  =ゲーアノート・ノメンゼン中尉  通信士 =アンネリーゼ・ホフシュナイダー少尉  言語学者=アンリエット・アゼマ  ミュー族=エカチェリーナ・メニシコヴァ  使節団長=ヘルムート・ビュッセル  会談を終えて、賓客室から出てくる使節団。  緊張から解き放たれて安堵の表情をしている。 「彼らと同盟を組むことはできないでしょうか? そうすればミュー族との戦いに も非常に有利になりますから」 「どうかな。彼らにしてみれば、同盟を結ぶ利点がないからな。彼らだけで、ミ ュー族とやり合える科学技術を持っている」  そこへ車椅子に乗った女性が通りがかった。 「この船には障碍者も乗っているのか?」 「戦傷病者でしょうか?」  賓客室から出てきた通訳係のクリスティンに話しかける女性。  親し気に話す言葉に驚く使節団だった。  それはミュー族の言葉だったからである。 「まさか!」  互いに顔を見合わせる使節団。 「お尋ねする。その女性はミュー族なのか?」  クリスティンに詰問する。 「その通りです。彼女の属していた艦隊との戦闘後に、漂流している所を保護しま した」 「保護? つまり捕虜ということですな。では、我々に引き渡してほしい」 「お断りいたします。カチェーシャは捕虜ではありません!」  扉の外での騒ぎを聞きつけたのか、トゥイガー少佐が顔を出した。 「どうした? 騒がしいぞ」 「実は……」  事情を説明するクリスティン。 「なるほど分かった」  納得すると、使節団に向かって言った。 「彼女は、海難事故の遭難者です。救助し保護しているので、お渡しすることはで きません」  きっぱりと断った。  それを聞いて安堵するエカチェリーナだった。 「断ると? 外交問題になりますぞ」  脅しをかけてくる使節団だったが、トゥイガー少佐には通用しない。 「ほほう。宣戦布告でもしますか? 受けて立ちますよ」  一介の士官が決断する問題ではないのだが、脅しに怯むようでは外交戦には勝て ない。 「分かりました。ここは引き下がることにしましょう」  受けて立つと言われれば、強気に出ることはできなかったようだ。  すごすごと引き下がる使節団だった。  使節団が旗艦ヴァッペン・フォン・ハンブルクに戻って来て、司令官ケルヒェン シュタイナーに報告をした。 「相手艦には、ミュー族の捕虜が収容されていました」  いの一番に伝えたのは、エカチェリーナのことだった。 「捕虜だと? 先の戦闘で捕らえたのか」 「そのようですね。引き渡すように伝えましたが断られました」 「まあ、当然だな。それはそれとして、どうだったか?」  本来の使節団としての報告を求めるケルヒェンシュタイナー。 「ミュー族艦隊を殲滅させるほどの科学力は目を見張るものがありました。技術力 の差は百年からあると思いました」 「まともに戦っては勝てないということだな」 「惑星ザールブリュッケンも彼らの手に堕ちました」 「ザールブリュッケンだと! 冬虫夏草攻撃を受けて住民全員が死亡、殺人胞子が 大気中に蔓延して、やむなく放棄した惑星じゃないか」 「彼らは胞子を焼却消毒して住み始めたようです。首都にしたとか言っていました」 「侵略者の何ものでもないではないか! 放っておくと、我々の所領のすべてを飲 み込んでしまうのではないのか?」 「可能性は否定できませんが、科学力では太刀打ちができません」 「願わくばミュー族との戦いで消耗してくれれば良いのだがな」 「今は相手の戦力分析に力を注ぎましょう。戦艦を何隻持っているかとか、人口は どれくらいいるのかとかです。この銀河に渡ってきたばかりのようですので、数が 少なければこちらの数で圧倒して優勢に進めるかも知れません」 「同盟を組んでおいてミュー族を嗾(けしか)けて、戦闘で疲弊したところで、彼 らの基地や都市に殴り込めば奪還できるでしょう」 「漁夫の利を狙うということか」 「元々我らの星なんですから、返してもらって当然でしょう」 「うまくいけばいいのだが」
   
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