第二章
Ⅳ 反乱  宇宙空間を、セルジオ艦が進んで行く。  後方には地球が浮かんでいる。  セルジオ艦艦橋。  スクリーン上に映る、離れ行く地球を見つめるセルジオ。 「地球重力圏離脱。これより惑星間航行に移ります」 「うむ……」  副官が近寄ってくる。 「それにしても、どうしてまた辺鄙な流刑星などへ向かうのですか?」  そこへクロード王が入ってきて同調する。 「その通りです、セルジオ閣下」  一同振り返ってクロード王を見る。  いやな奴が来たといった様な表情をするセルジオ。 「私の娘が、あの宇宙船に人質として連れ去られてしまったのですぞ。あの船を 拿捕して、娘を救出したかったのです。それなのに……」 「分かっておるわ。いいかクロード。イレーヌが連れ去られるまでのことを思い 出してみるがよい。まず日頃イレーヌと仲良くしていたのは誰か? そいつがイ ンゲル星に行ってまもなく、あの船が出現してイレーヌを連れていったこと。そ して行方不明になっている、イレーヌ付きの侍女のことだ」 「それでは侍女がイレーヌを誘い出して、宇宙船に乗せてアレックスを救いに行 ったと?」 「それ以外にないだろうさ。奴らは、必ずインゲル星に現れる」 「ならば奴らは、直接インゲル星に向かわないのですか」 「それは、我々の目を他に向けさせて、真の目的を悟られないようにするためか もしれぬ。それとも時を稼ぐためなのか」 「それでは……」 「うむ。我々はインゲル星に先回りする」 「信じていいのでしょうか」 「儂の目に間違いはない」 「はい、分かりました」  夜の流刑星収容所。  管制塔からは、サーチライトが収容所内外を順次照らしている。  収容所外回りの番所に銃を構えて立っている軍人がいる。  そこへもう一人の軍人が歩いてくる。 「今夜はやけに冷えるな」  と言いながら、一本の煙草を差し出す。 「おう。やっと交代の時間か」  受け取って煙草を咥えると、火をつけて燻(くゆ)らす。 「俺達いつまでこの収容所に配属されているんだろうか。軍人である以上、前線 に出て敵と戦ってみたいよ」 「それもそうだな。ここにいる限り、いつまで経ってもただの一兵卒でしかない し、武勲を上げて昇進するらもできないのだからな」 「それに相手になる女もいないしな」 「本音が出たな」  そこへ将校がやってくる。 「おまえら何をしている。任務につかんか!」  恐縮して敬礼して、立ち去っていく番兵。  交代要員の方も番所に立った。  彼らに一瞥して立ち去る将校。 「まったく最近の連中はなっとらん! 軍紀も乱れてきたようだな。やはり敵と 戦うわけでもなく、脱獄不可能と言われる収容所を見張るだけという任務上、緊 張していろという方が無理なのか。あの煩(うるさ)型の弁務コミッショナーも 近々やってくるというのに……」  管制塔を見上げる将校。  背後で微かな音がした。  腰の銃を抜いて叫ぶ。 「誰だ!」  答えはないが、人の気配が先の方の暗がりからする。  将校、注意深く暗がりの方へ向かってゆく。 「そこにいるのは分かっている。姿を現せ!」  その直後、上の方から人が飛び降りてきて、将校の銃を叩き落とす。  慌てて銃を拾おうとする将校だが、暗がりから現れた人物に押さえられてしま う。 「声を出すな! 一言でも口にしてみろ。命はないぜ。へへ、こいつのようにな」  その足元には絶命したと思われる兵士が倒れている。  将校に猿轡(さるぐつわ)を噛ませて、引き連れてゆく。 「よし、ひとまず引き揚げだ」 「他の連中はうまくやっているかな」 「おい、無駄口はたたくなよ」  牢獄内。  兵士達が壁に向かって立たされ、囚人たちに銃を突きつけられている。  そこへ将校を連れた連中がやってくる。  将校を見た兵士が話す。 「中尉殿!」 「一体、これはどうしたというのだ」 「はあ……それが、気が付いてみたらこうなっていたのです」 「気が付いたらだと? 何を寝言を言っておる」  後ろから足音がした。 「私が、彼らの食事に眠り薬を入れたのよ」  話しかけたのは、アレックスに差し入れをしたルシアという女性だった。 「おまえは給仕係の……。薬をどうやって手に入れた?」 「それはどうでもいいことだ。とにかく貴様は、我々の捕虜となった」 「我々を捕虜にして何を企んでいる? 仮に脱獄だったとしても、それは不可能 なことだ。ここには脱出する船は一つもないのだからな」  だが、ほくそ笑む囚人たちだった。 「それはどうかな」 「なに?」  司令官室。  ここにも椅子に縛り付けられた司令官ボイジャー大佐がいた。  集まっている囚人達。  ルシアとアレックスも、その中にいた。  そこへ中尉も連れてこられる。 「ヘイグ中尉。囚人に対して厳しかった君も、こうなっては全く逆の立場になっ てしまったな。こうも簡単に捕虜になるとは、常に用心深い君らしくない。考え 事でもしていたか」 「司令、申し訳ありません」 「うむ……」  司令、アレックスの方を向く。 「君が反乱の首謀者か? まだ若いな……。その若さで、囚人たちの心を一つに まとめ上げるとは、只者ではないな」 「当り前よ。この方は、トラピスト王家のお一人なんだから」  ルシアが疑問に答える。 「トラピスト王家だと?」 「そうよ。あなた達よりもずっと身分の高いお方なんだから」 「ルシア。口が軽すぎるぞ」  囚人が窘(たしな)める。 「だってえ……」 「いいから黙っていなさい」 「はあい」 「それで……我々にどうしろというのだ?」 「まずはすべての囚人の即時解放。兵士たちの武器解除」 「言っておくが、君たちの天下もそう長くは続かないぞ。ここはバーナード星系 連邦の絶対防衛圏内だ。ここを脱出しない限りは、君たちの運命は決まっている。 がしかし、脱出は不可能だ」 「それはどうかな」  その言葉を合図のように、一人の将校が入室してくる。 「おまえは、ビューロン少尉! どうしておまえが?」 「彼は、我々の同志だ」 「同志だと?」 「その通りです。私は司令の進める政策には同意できなかった。ここにいる囚人 達は、確かに罪を犯した者で、罰として連れてこられたには違いありません。し かし人権を無視した扱いをされ、奴隷のように過酷な労働を負わされています。 このように考えているのは、私だけではありません。このクーデターが囚人達だ けで行われたと思いますか?」 「無理だろうな」  ボソリと答える司令。 「そう……囚人達に手を貸した者は、私だけではないのです。収容所にいる軍人 の約四分の一が手を貸し、こうしてクーデターを成し遂げたのです。お分かりで すか、司令殿」 「お前らを軍法会議にかけて死刑にしてやる」 「我々は、ここを脱出します。軍法会議に掛けたければ好きなようにして下さい」 「してやるとも。脱出すると言ったが、お前たちを収容する船など一隻もないの だからな」 「それがあるんですよ」 「どこにある? 何を戯言(たわげたこと)を」 「今ここにはありませんが、じきに現れますよ」  司令、頭を傾げていたが、気が付いたように。 「まさか! お前たち」 「気が付かれましたか。その通り、近々弁務コミッショナーがここへ来るらしい です。そのコミッショナーの船を乗っ取ります」 「馬鹿な! コミッショナーは用心深いお方だ。船は警戒厳重、とても乗っ取り などできるはずがない」 「やってみなければ分かりませんよ。もっともあなた方にも多少お手伝い願うか も知れませんがね」 「誰が、脱走の手助けなどするものか!」  ヘイグ中尉が大声で拒絶する。 「その通りだ。今からでも遅くない。武器を捨てて、クーデターなどという馬鹿 なことはやめろ。君達士官の待遇を良くしようじゃないか。どうだ」  司令と将校の説得が続いている。 「君はアレックスとか言ったな。君からも皆を説得してくれまいか」  一同、アレックスを見る。 「賽は投げられたのです。もはやどうにもならない。運命に従ってください」
     
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