第二十六章 帝国遠征
Y  それから数日後。  タルシエンに集う全将兵に対してのみにあらず、旧共和国同盟全域に対して、今後 のアル・サフリエニ方面軍の方針を、全周波帯による軍事放送を伝えるアレックスだ った。 『共和国同盟に暮らす全将兵及び軍属諸氏、そして地域住民のみなさんに伝えます。 私、アレックス・ランドールは、タルシエン要塞を拠点とする解放軍を組織して、連 邦軍に対して徹底抗戦することを意志表明します。解放の志しあるものは、タルシエ ン要塞に結集して下さい。猶予期間として四十八時間待ちます。以上です』  艦内のあちらこちらでは、解放軍結成表明を放送するアレックスをモニターで見つ めている隊員達がいる。 「解放軍か……」 「どうなるんだろうねえ。俺達は」  全宇宙放送から要塞及び解放軍に対しての放送が続く。 『それでは引き続き、現在タルシエン及びアル・サフリエニに集う全将兵に告げる。 今表明した通りに、我々は総督軍に対して徹底抗戦する。祖国に弓引くことになり、 家族や親類同士で戦うことになる可能性もある。そこで諸君らに選択の機会を与える ことにする。我々と共に祖国の解放のために戦うか、それともここを去り祖国に帰る か。君たちの自由意志に任せることにする。四十八時間の猶予を与えるから、じっく りと考えて結論を出してくれたまえ』  艦内のあちらこちらでは、自身の身の振り方についての会話がはじまった。  第十七艦隊旗艦、戦艦フェニックスの艦橋でも全艦放送を聞いて困惑の表情を見せ るオペレーター達がいた。自分達の指揮官であるチェスターがどういう結論を下すの か? それに従うかどうか、それぞれに頭を悩ましていた。 「閣下は、いかがなされるのですか?」  少佐になったばかりのリップルは聞くまでもないと思いつつ、チェスターに尋ねて みた。 「ランドール提督は、定年間近な私を艦隊司令官として迎え入れてくれた。オニール やカインズという新進気鋭の後進が育ってきて、慣例ならば勇退という形で勧奨退職 が一般的だ。後進に道を譲るよう諭されるところだったのだが」 「将軍への最高齢昇進記録を塗り替えました」 「将軍となることは、武人としての栄誉である。それをかなえてくれたランドール提 督には、恩を返さねばならないだろう」 「しかしトランターに残してきたご家族のことは?」 「それは私にも心痛むところだが、軍人の妻として一緒になったときから、常に心構 えはできている。子供達も理解はしてくれていると思う」 「閣下、艦内放送が整いました」 「判った」  第十七艦隊としての行動判断を示す必要があった。  チェスターは、ランドール提督に付き従うことを決めてはいたが、それを部下にま で強制することはできなかったからである。 『第十七艦隊の諸君。私は、ランドール提督と共に戦うつもりだ。しかし君たちを軍 規によって縛り付けることはできない。ここに残るも、祖国に戻るも個人の自由だ。 それぞれによく考えて、身の振り方を決定したまえ。以上だ』  同様な艦内放送は、独立遊撃艦隊のゴードンやカインズ、そして旗艦艦隊のスザン ナのところでも行われていた。  ハイドライド型高速戦艦改造II式「ノーム」を乗艦とするスザンナは、艦内放送を 終えて感慨に耽っていた。旗艦艦隊司令官という光栄を預かっただけでなく、これま で実験艦という位置づけだったこのノームを再び準旗艦に格上げさせて与えてくれた。 「ベンソン司令は提督について行かれるのですよね」  スザンナの副官となった二コレット・クーパー少尉が確認する。 「もちろんです」 「ですよねえ。提督の士官学校時代からずっと共に戦ってこられたのですものね」 「その通りです。何があろうとも付いていくわ」 「ご一緒します」 「ありがとう」  二コレットは尊敬に値する感情を、この上官に抱いていた。  提督の厚い信頼を受けて、一般士官である艦長という身分ながらも艦隊運用を任さ れるようになった。運にも恵まれていたかも知れないが、誰しもがその才能を認めて いたし、それ以上に努力家であることも知っていた。  勤務が終えた後に、資料室で一人静かに戦術理論の研究をしているを良く見かける。 提督の期待に応えるために、一所懸命に勉強を続けていた。  自分もそうありたいと二コレットは思った。
     
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