第二十六章 帝国遠征
W  ゲリラ戦を引き起こし、総督軍の足元をかき回すということで、みなの意見は統一 されていった。  しかし大事なことが残っていた。  解放軍といえば聞こえがいいが、政府軍に対する反乱軍という位置づけには変わり はない。  国民を総動員して税金という軍資金を調達し、次々と戦艦を建造して投入すること のできる総督軍に比べれば、反乱軍は圧倒的に脆弱である。いくら周辺地域を取りま とめて協力を仰げたとしても限度がある。  強力なパトロンが必要であった。  古代から政府軍や占領軍を転覆させたような反乱軍には、武器や軍資金を供与して 後押ししてくれる国家があった。ナチス政権下のパルチザン組織フランス義勇軍には 連合国が付いていたし、ベトナム戦争や朝鮮動乱に際しては、ソ連や中国といった共 産国が後の北朝鮮を援助し、韓国はアメリカである。いずれにしても背後には強力な 国家があった。もちろんそれには利権とかも絡んでいるのであるが。  アレックスがパトロンとしようとしているのは、もちろん銀河帝国である。 「解放軍が、連邦軍を追い払い民衆を解放するのは第一の目的であるが、それ以前に 内部攪乱を引き起こすことによって、銀河帝国への進攻を一時にでも引き伸ばすこと にある。その間に、銀河帝国と接触を計って解放軍の味方につける必要がある。そう でなければ永遠に解放の時はこないであろう」 「銀河帝国に支援を求めるのですか?」 「銀河帝国が我々の味方についてくれるでしょうか」 「それはやってみなければ何ともいえない。しかし、彼らだって共和国同盟が滅ぼさ れ、連邦の次の目標が自分達の領土であることを身にしみて感じているはずだ」 「感じていなかったら?」 「その時は滅びるだけさ」 「ところで、銀河帝国と接触するとおっしゃいましたが、その重要な任務にあたるの を誰にまかせるかですが……」 「もちろん、その任務は私があたる」 「そんな……提督には要塞に残って全軍を指揮していただかないと」 「その必要はない。今後は要塞の守備とゲリラ戦が主体で、積極的に攻撃に打ってで ることはない。となれば私よりも、ガードナー提督の方がより適任である。ゲリラ部 隊には、ゴードンとカインズにやってもらう。ついてはシャイニング・カラカス・ク リーグ基地には偵察の機能のみ残して、全艦隊を要塞に集結させる」 「基地を見捨てるのですか」 「そういうことになるな。総督軍に対して艦隊数において劣る我々にとって、三基地 を防衛するために兵力を分散させるのは得策ではない。各個撃破されて消耗するのが 関の山だ。或は直接要塞へ全軍で掛かられれば持ちこたえられない」 「奪取されれば、要塞攻略の拠点とされることになりますが」 「それは考慮する必要はない。科学技術部が骨を折ってくれたおかげで、この要塞を 移動させることが可能となった」 「それは本当ですか?」  一同が驚きの声をあげた。  この巨大な要塞を移動させることなど、誰も考え付かないことだった。  もちろんそれを可能にしたのは、フリード・ケイスン中佐であろうことと、彼の天 才を持ってすれば不可能ではないだろうと誰しもが理解した。 「いくら強固な要塞とて、動けなければどうしようもない。一箇所に留まっているの だからな、慌てることもなくじっくりと、いくらでも攻略作戦を練ることができる。 例えば次元誘導ミサイルのような新兵器を敵が開発すれば、たちどころに危機を招く ことになる。何せ次元誘導ミサイルの設計図が同盟軍の軍事コンピューターの中に残 っているのだから」  ジュビロと連絡が取れれば、設計図を抹消することも出来たのであるが、連絡役の レイチェルはここにはいない。またミサイルの予算取りのために各方面に申請書を出 してあるから、あちこちに設計図の記された書類が分散してしまっているはずである。 それらをすべて抹消することも不可能だろう。 「ともかく移動可能となったからには、神出鬼没の機動要塞として、本拠地を察知さ れることなく敵艦隊を攪乱することができるわけだ。ゆえに三基地を固持する必要は ない」 「でもカラカスの軌道衛星砲はもったいない。撤収して要塞周囲に必要に応じて展開 できるようにしてはいかがでしょう」 「それもいいだろう」 「本拠地となるこの要塞の防衛の陣頭指揮はフランク・ガードナー少将にお願いする が、ゲリラ部隊となる特別遊撃艦隊の指揮を、ゴードン・オニール上級大佐にやって もらう。もう一個艦隊として……」  アレックスはゆっくりと議場の将校達をなめるように見回してから、 「ガデラ・カインズ大佐」 「はっ!」  指名されて立ち上がるカインズ。 「シャイニング基地にある未配属のままの三万隻の艦艇を貴官の部隊に併合して、正 式に一個艦隊として編成させることにする。ゴードンと共同してゲリラ作戦の主先鋒 として指揮を取ってくれ」  一部から、感嘆の声が漏れた。或は、「やはりね」と頷いている者もいる。 「わかりました。艦隊の指揮をとります」 「シャイニング基地へ至急赴いて、それらの艦隊を総督軍に奪われる前に、すみやか に回収併合して、基地から撤収させるのだ」 「基地から撤収するのですか」 「そうだ。シャイニング基地は放棄するからな」 「ゲリラ部隊には、攻撃目標となる動かぬ基地は必要ありませんからね」 「なお、この場においてゴードンとカインズ両名を准将として任ずる。同盟がこうい う状況なので、正式辞令は出せないがな」  それを一番喜んだのはパティー・クレイダー大尉だった。  直属の上官が昇進すれば自動的に自分にも昇進の機会が与えられるからである。 「長くなった。今日のところはこれで解散して、また明日に会議を持つことにしよう。 質問などがあればその時にお願いする」  と立ち上がって退室するアレックスだった。
     
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