第二十六章 帝国遠征

U  ワープゲートに進入するスティールの旗艦シルバーウィンド。  それを囲むように護衛艦数隻が同行している。  その様子を艦橋から眺めている副官が呟くように言った。 「来るときはあれだけの大艦隊を引き連れていたのに、帰りはやけに寂しい限りです ね」 「連邦でも戦闘に長けた精鋭部隊などは、連邦にいない方が後が楽だからな。我々の計画には邪魔になるだけだ。致し方 あるまい」 「それに閣下の配下の部隊でもありませんしね。みんな置いてきちゃいましたから、 栄光の同盟侵攻の手柄を他人に譲るのかって不思議がってました」 「言わせておくさ。それもこれも連邦が存続してのことだからな」 「そうですね」 「ワープゲート始動十秒前です」  オペレーターが告げるのを聞いて、自分の席に戻る副官。 「さあ、いよいよだ」  機動要塞「タルシエン」中央管制室。  中央の指揮官席に座りパネルスクリーンを見つめるアレックス。そしてオペレー ター達も神妙な面持ちで眺めている。  その映像は、要塞内はもちろんすべての艦艇の艦内放送に流されていた。  画面一杯にクローズアップされたニュースキャスターが、背後の建物について解説 している。 『こちらは共和国同盟評議会議場です。バーナード星系連邦の戦略陸軍の兵士達によ って占拠され、議員全員が軍部によって強制的に解散させられました。今後は、総督 府の管理指導の下に、再選挙が行われる予定であります。それでは、その総督府にカ メラを切り替えましょう。アイシャさん、お願いします』  カメラが切り替わって、別のニュースキャスターが登場する。 『はーい。アイシャです。総督府から中継します。さて、ご覧下さい。こちらがかつ ての共和国同盟軍統合本部であり、新たに設立された総督府となった建物であります。 これからの政治の中心となる最高の統治機関となります』  カメラが総督府の建物をズームアップする。 『総督府の最高責任者は、戦略陸軍マック・カーサー中将です……』  放映を見ていたジェシカが呟く。  「おかしいですね。トランターはスティール・メイスン少将が陥落させたのに、どう して別人が統治することになったのでしょうかね」 「そうそう。マック・カーサーなんて名前は聞いたことありません」 「戦略陸軍っていうくらいだから、惑星の占領や、占領後の政策を担当する部隊なの だろう。メイスンは宇宙艦隊所属で宇宙空間での戦闘が任務と、宇宙と地上とで分業 になっているのかも知れない」  キャスターの解説は続いている。 『それでは総統府の総督執務室にカメラは切り替わります。二コルさん、お願いしま す』  見慣れたいつもながらのTV報道であった。  普通なら報道管制が敷かれてしかるべきなのに、各報道機関は自由に取材と報道を 許可されているようだった。通行人さえ自由に行き来している姿も映像の中に見受け られる。  戒厳令を執らない、マック・カーサーという人物なりの占領政策の一環なのであろ う。 『二コルです。こちら総督執務室では、マック・カーサー総督の記者会見が、まもな く執り行なわれことになっています』 「記者会見とは、しゃれたことしますね」 「どうやらカーサー提督という人物は、占領した住民との宥和を大切にしているらし い」 「融和政策ですか……」 「銀河帝国のことがあるからよ。銀河帝国に侵略するためには、まずバックボーンと なる地盤を固めておかねば、いざ侵略開始って時に反乱や騒動が起きて、足元を崩さ れたら元も子もない。そうですよね、提督」  ジェシカが代わって解説してくれる。  相変わらず手間をはぶいてくれる御仁だ。 「提督が、第八占領機甲部隊をトランターに残してきた理由がやっと判りましたよ。 メビウスに内乱を起こさせて銀河帝国への侵略を少しでも遅らせようという魂胆だっ たのですね」  リンダが左手のひらを右手拳で叩くようにして合点していた。 「気づくのが遅いわよ」 「だってえ……」 「あ! 総督が出てきました」  パティーの声でみなが一斉に画面に集中する。  そこにはバーナード星系連邦トリスタニア総督マック・カーサーが、入場してきて 着席する場面であった。 『本日をもって、トリスタニア共和国同盟はバーナード星系連邦の支配下に入ったこ とを宣言する』  そして開口一番占領宣言を言い放ったのである。  場内に微かなどよめきがひろがった。  一人の記者が代表質問に立った。 『共和国同盟には、出撃に間に合わなかった絶対防衛艦隊や、周辺守備艦隊を含めて、 残存艦隊がまだ三百万隻ほど残っています。これらの処遇はどうなされるおつもりで すか?』 『残存の旧共和国同盟軍は、新たに編成される総督軍に吸収統合されることになるだ ろう』 『タルシエン要塞にいるランドール提督のことはどうですか? 彼は未だに降伏の意 思表示を表さずに、アル・サフリエニ方面に艦隊を展開させて、交戦状態を続けてい ます』 『むろんランドールとて共和国同盟の一士官に過ぎない。共和国同盟が我々の軍門に 下った以上、速やかに投降して、要塞を明け渡すことを要求するつもりだ。もちろん 総督軍に合流するなら、これまで共和国同盟を守り通したその功績を評価して、十分 な報酬と地位を約束する』
     
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