第二十五章 トランター陥落
W  その頃、スティールも妻との営みに励んでいた。 「あ、あなた!」  久しぶりのこととて、妻は激しいほどに燃えてスティールの愛撫に悶えた。  そしてスティールのすべてを受け止める。  妻として、夫の子供を宿すために。  もちろん確実に妊娠するために、スティールの帰還に合わせてピルを飲む加減を調 整し、帰宅のその日に排卵が起こるようにしているはずだった。  寄り添うようにスティールの脇で眠っている妻。  実に幸せそうな寝顔だ。  女性として軍人の妻となり、彼の子供を産むことは一番の幸せである。  連邦に生きる女性のすべてが、幼少の頃からそう教えられて育ってきた。  男性は軍人として働き、女性は子供を産み育む。  それが当然のごとくとして、連邦の人々の人生観となっている。  誰も疑問を抱かない。抱く思想の種すらも存在しないのである。  すべての民に対して幼少の頃から教育されれば、そのような思想や概念が植え付け られるということである。  かくして、スティールの妻も、軍人の妻になるという幼少の頃からの夢が適って幸 せ一杯の笑顔を見せる。そして子供を産み育てることを生きがいとしているのだ。  スティールと結婚する前には、他の女性と同じように授産施設に通っていた。結婚 して夫婦となってからは、士官用官舎に入居してただ一人の男性と夜を共にする。  官舎暮らしに入れる士官との結婚を、すべての女性が夢見ているのであった。  妻の寝顔を見ながら物思うスティール。  共和国同盟との戦争が膠着状態となり、すでに百年近く続く戦争。  この戦いに勝つために必要なことは、味方が一万人殺されたら、敵を二万人殺せば いい。そして死んだ一万人に代わる新たなる生命を生み出すこと。  そうすればやがて敵は人口減少からやがて自然消滅する。  長期的となった戦争を勝ち抜くには、いかにして人口を減らさないかに掛かってい るのだ。  こういった思想から、現在の連邦の教育制度が出来上がった。  特に女性に対しての徹底的な思想改革が行われ、人口殖産制度が出来上がった。女 性のすべては軍人の妻となるか、授産施設に入るのを義務付けられ、妊娠可能期がく れば男性の相手をして妊娠しそして子供を産む。そして子供を産んだ場合は、その子 が一人立ちするまで、十分な養育費が支給される。女性自身が働かなければならない ことは一切ないから、安心して子育てに専念できるというわけである。 「授産施設か……」  そういった制度が、果たして女性にとって本当に幸せなのか?  スティールには判断を下すことができない。
     
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