第十七章 リンダの憂鬱
W  フランソワが艦橋にたどり着いたときには、他の乗員達は全員配置につき終わった 後だった。 「フランソワ。遅いわよ」  当然というべきか、遅刻をパトリシアに叱責されてしまう。 「申し訳ありません」  平謝りするしかないフランソワであった。  艦橋内を見渡してみると、すでにランドール提督は指揮官席についていた。 「シルフィーネ、戦闘配備完了しました。続いてウィンディーネ、ドリアード、そし てセイレーン。戦闘配備完了しました」  次々と戦闘配備完了の報告が入ってくる。  やや遅れて、 「提督。旗艦サラマンダー、総員戦闘配備完了しました」  リンダが立ち上がって申告する。 「よし! そのまま待機せよ」 「了解。待機します」  アレックスは後ろを振り向いて、情報参謀として傍に控えているレイチェルに話し かける。 「どうだ、レイチェル。計測の方は?」 「三分二十秒です」 「うーん。遅いな……スザンナは、二分四十五秒で完了させたんだがな」 「条件は、ほぼ同じのはずです」 「そうだな……せめて三分以内でないとな」 「しかし、新人も大勢配属されていますから、単純な比較はできません」  レイチェルが進言する。 「そうなのだが、今後の訓練の指標にはなる」 「全艦、戦闘配備完了しました!」 「そのまま待機せよ」  と指令を出して、レイチェルを見つめるアレックス。 「提督。全艦の戦闘配備完了時間のデータが揃いました」 「よし。ご苦労だった」  と言いつつ正面に向き直って、 「全艦の戦闘配備命令を解除、通常任務に戻せ。全艦放送を用意してくれ」  通信オペレーターに指示する。 「全艦隊の諸君。いきなり予告なしの訓練に戸惑ったことと思う。しかし敵は予告な しに襲ってくるものなのだ。今回の訓練で慌てふためいた者はいなかったか? 配置 につくのに手間取った者はいなかったか? それぞれ思い当たることがあるならば、 これを反省して次回にはよりスムーズに動けるようにして貰いたい。何時如何なる時 も万全の体制が取れるように、常日頃から十分すぎるほどの訓練を重ねておかなけれ ば、いざという時に慌てふためいて各自の能力を発揮できないこともありうるのだ。 今回はこれで訓練を終わるが、今後も予告なしに戦闘訓練を行うので十分訓練を積み 重ねておくように。総員ご苦労だった。なお、各部隊指揮官(LCDR)及び準旗艦 艦長は、サラマンダー第一作戦司令室に直ちに集合するように。以上だ」  数時間後、第一作戦司令室に集合した将兵に対し、緊急戦闘訓練に際しての、各艦 の戦闘配備完了時間が発表された。  旗艦・準旗艦だけを拾ってみると、  艦名      指揮官     今回      平均  シルフィーネ  ディープス   二分四十九秒↑ 二分五十五秒  ウィンディーネ ゴードン    二分五十四秒↓ 二分五十二秒  ドリアード   カインズ    二分五十四秒↓ 二分四十八秒  セイレーン   ジェシカ    三分二秒  ↓ 三分一秒  セラフィム   リーナ     三分五秒  ↑ 三分七秒  サラマンダー  アレックス   三分二十秒 ↓ 二分四十五秒  ノーム(実験艦)フリード(技師)四分三十秒   データなし  と並んでいるが、アレックスが望む三分以内を実現しているのは、ロイド中佐以下 ゴードンとカインズの三艦だけという結果が出た。ロイドのシルフィーネが一位を取 ったのは、副指揮官として乗艦しているスザンナの手並みだろうと思われる。サラマ ンダーと同型艦のシルフィーネだからこそであり、艦長のメイプル・ロザリンド大尉 を懇切丁寧に指導していたのだろう。これだけの短期間でここまでの成果を出したの も、その指導力にあるのだろう。アレックスが見抜いたとおり、ただの艦長で終わる ような、並みの士官ではないことを証明していた。  なお、ノームはカール・マルセド大尉が乗艦して準旗艦となっていたが、現在は技 師のフリードが乗艦して、日夜さらなる改良のためにエンジン及び制御システムをい じくっているので、現在では準旗艦を外されて実験艦扱いとなっている。またセイ レーンとセラフィムは、艦載機群を直接指揮するジェシカと、空母艦隊を指揮する リーナとそれぞれ分業しているので、両艦とも準旗艦扱いとなっている。また両艦の ような空母の場合は、艦載機にパイロットが乗り込んで、全機発進準備完了となるま でが計測されるので、艦艇の種類別では時間が余計にかかる。  サラマンダーが残念な結果に終わったのは、艦長が新任であったこともあるが、そ れ以上に旧第十七艦隊を併合したせいでオペレーターが数多く異動されて刷新してい たせいもある。
     
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