第十三章 ハンニバル艦隊
U  この時点においてアレックスが手中に収めた勢力範囲はカラカス基地だけに止まら なかった。  カラカス基地を防衛するに止まらず、周辺地域への逆侵攻を開始して、手当たり次 第にその勢力下に収めていったのである。  アイスパーン機動要塞と駐留部隊の搾取二千隻。  スウィートウォン補給基地と駐留部隊搾取千五百隻。  タットル通信基地と駐留部隊七百隻。  ミルバート補給基地と駐留部隊三千隻。  そして第二次・第三次カラカス基地攻略艦隊撃破による五千隻の搾取。  アレックスは基地に駐留するということはしなかった。常にその居場所を悟られな いように、基地を転々として動き回り、ある基地を攻略に向かった艦隊があれば、い つの間にかその背後に現れて、これを壊滅させていったのである。  基地も艦隊も、電撃石火の急襲を受けて、反撃するまもなく壊滅させられていった。 基地を奪われるのにならず、貴重な艦艇を搾取されて、みすみすランドール艦隊を増 強され、その増強した部隊によってさらに快進撃を続けるという悪循環であった。  すでにタルシエン要塞は、周辺基地をことごとくアレックスの手中に落とされて、 丸裸状態といっても過言ではないほどになっていた。火中の栗を拾うがごとく、アレ ックスに手を出せば出すほど、大火傷を負う状態である。  もはやアレックスのいる宙域への進軍を具申するものは誰もいなかった。  侵攻作戦は、クリーグ基地方面へと転進することになった。  しかし問題があった。何せクリーグ宙域は、補給できるような星々がほとんどなく、 長期戦となれば補給に事欠くことになる。当然として多くの補給部隊を引き連れての 侵攻となるが、そのルートの確保に多大な護衛艦隊を割かなければならなり、戦力不 足を引き起こすことは否めなかった。  戦略的には無意味といえた。  かと言って、シャイニング基地はあまりにも防衛力が強大すぎる。  地表を埋め尽くす無数のミサイルサイトとレーザーパルス砲が宇宙を睨み、地下数 十キロに設置された核融合炉からのエネルギー供給を受けた星全体を覆うエネルギー シールド。これを攻略するには最低でも五個艦隊は必要だとされている防御力を誇っ ている。  誰が考えても、最善の侵攻ルートはカラカス基地からしかない。  という結論しか出ないのであるが……。 「誰か、奴を打ちのめすという自信のある者はいないのか?」  声を枯らして要塞司令官がうなり声を上げた。  しかし、誰も手を挙げなかった。  テルモピューレ会戦でのアレックスの作戦は奇想天外にして絶妙。  火中の栗を拾おうという者はいない。  ただでさえこの要塞司令官は冷酷非情ながらも無能である。  作戦が成功すれば全部自分の手柄、失敗すれば詰め腹を切らせる。  それが分かっているからこそ、自分から進んで名乗り出るものはいない。
     
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