第十一章・スハルト星系遭遇会戦
Ⅺ  その頃、アレックスはオフィスでゴードンと対面していた。ドアの所にはゴードン の副官のシェリー・バウマン少尉が控えている。 「どういうことだ、ゴードン。君の配下の者が命令違反を犯すとは」 「申し訳ありません」  スハルト星重力ターンでの帰投命令を無視し、追い掛けてきて戦列に復帰してきた 艦艇と艦長のリスト。その十二隻すべてが第一分艦隊所属、ゴードンの配下であった。 ゴードンの分艦隊は高速性が優先されているために、防御壁が脆弱で耐熱性に弱い艦 艇が多かった。ゆえに脱落艦も多数出てしまったのである。それを突きつけられて恐 縮しているゴードン。 「スザンナは帰投命令を出していたはずだ。そうだな」 「はい。間違いありません」 「今回の奇襲作戦の主旨からいっても、一部の者の身勝手によって部隊全滅の危機に さらすことになったことは、君にも理解できるだろう。作戦コースを外れた場所で コース変更を行えば、敵の重力加速度計に探知されるのは周知の上だったはずだ。そ の上敵の哨戒機に発見されなかったのはたまたま運が良かっただけだ。違うか?」 「その通りです」 「敵艦隊には特殊任務を帯びていたらしく、索敵とかには無頓着だったみたいだから、 幸いにも作戦自体には影響はなかったが……。その上、彼らのおかげで退却し逃げ出 す寸前の敵将を捕虜にできたことは幸運だが。結果は問題じゃない。行為そのものが 問題にされていることは理解できるだろう」 「はい」 「それらの艦長全員に対して、二ヶ月間の限定階級剥奪と謹慎処分を命ずる」  厳かに処分を言い渡すアレックス。  女性士官専用居住区の設定や、ランジェリーショップの許可など、色々と乗員の為 に福利厚生などには、十分すぎるくらい配慮しているものの、艦隊の危機を招くこと になる命令違反は重大であり、厳罰をもって処分しなければいけない。 「監督不行き届きとして、君にも厳罰を与えねばならないが」 「覚悟しております」 「うん……。給与の二割減棒及び二週間の謹慎処分だ。いいな」 「わかりました」  今回の命令違反は、指揮官としてゴードンも重々承知しており、一言の弁明も反論 もしなかった。ただ粛々として処分を受け入れるしかなかった。 「話しは以上だ。下がって良し」 「はっ」  敬礼し、表情を強ばらせたまま退室するゴードン。  通路に出たところでシェリー・バウマン少尉が話し掛けてきた。 「少佐殿に対する処分は、ちょっとひどすぎると思いませんか」  自分の信奉する上官に下された処分に、憤懣やるかたなしといった様子だ。 「彼らのおかげで、逃げ出す寸前の敵将捕獲に成功したのですよ。いわば功労者では ありませんか」 「確かに結果的にはそうかもしれない。がしかし、いかな戦果をあげたかではなく、 いかに行動したかが問われているのだ。司令代行のベンソン艦長は、帰還命令を出し た。司令から全権を委ねられた以上、彼女の判断と命令は、司令自らが下したものと 同じなのだ。それを無視したことは、軍法会議にかけられても致し方ないものだ。司 令訓告だけですませてくれただけも有り難いと思わなくては」 「しかし……長年の友人なのに……」 「いいんだ、シェリー。中佐の取られた判断には間違いはない。戦いに友人も何もな いさ。あるのは上官と部下であり、命令と服従なんだよ。私情は禁物さ。ここで彼ら を許しては、今後も同様の命令違反を犯す者が出てくる。そうではないかな?」 「は、はい……」 「逃げ出す寸前の敵将を捉えたのだ。本当は勲章を与えてもいいくらいなのだが…… 結果を誉めるよりも、行動を懲罰する方を選んだのだよ。心を鬼にしてね」 「はあ……そうですね」 「とにかく、彼らに会うとしよう。ウィンディーネに戻るぞ」 「はい」
     
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