第十一章・スハルト星系遭遇会戦
X  サラマンダー兵員食堂。  アレックスとパトリシアが仲良く食事を取っている。 「まあ、何にしても今回のスザンナの働きは賞賛に値するな。それだけははっきりと している」 「そうですね……」 「どうした浮かない顔だな」  せっかく忘れようとしていたのに思い起こされてしまったという表情のパトリシア。 「いいえ。何でもありません」 「そうか……。ところでパトリシア」 「何でしょう?」 「今、どんな下着を着ている?」  周囲を気にしながら、パトリシアの耳元でひそひそ声で尋ねるアレックス。 「はあ……?」  突拍子もない質問をされて唖然としている。  いくら夫婦生活にある間柄とはいえ突然のこととて、さすがに答えに窮してしまう。  その戸惑っている様子をみて、 「い、いや。いいんだ。忘れてくれ」  と前言撤回した。  丁度、その時だった。 「中佐殿。探しましたわ」 「レ、レイチェル!」 「巡回査察がまだ途中です。続きを致しましょう。おいで下さいませ」 「なあ、巡回はもう済んだということにしないか?」 「だめです。前例を作ることを許したら、今後も逃げ口上に使われるのでしょう」 「レイチェルには、かなわないな……」  この時ほど、レイチェルが鬼のように感じたことはなかった。  渋々と立ち上がるアレックス。  そんな二人の会話を聞きながら、怪訝そうなパトリシア。優柔不断な態度のアレッ クスと毅然としたレイチェル。いつもの二人とまるで様子が違っていたからだ。 「ああ、そうだ。パトリシア」 「何でしょう?」 「スザンナに、スハルト重力ターンで脱落した艦艇とその艦長のリストを作成しても らって、オフィスに届けておいてくれ」 「スザンナ艦長の帰投命令を無視して戦列に復帰した艦艇ですね」 「そうだ。それとゴードンも呼んでおいてくれないか。1700時がいいな」 「かしこまりました」 「じゃあ、頼むね」  巡回査察再開のために、レイチェルと共に食堂を立ち去って行くアレックス。 「アレックスらしくないわねえ。たかが巡回査察に、レイチェルさんと、一体何があ るのかしら……」  女性居住区という女性達の憩いの場に、踏み込まなければならないアレックスの心 境を、女性であるパトリシアが理解するにはまだ経験が浅かった。  それから数時間後、巡回査察を終えたレイチェルとパトリシアが並んで歩いている。 「なんだ。そういうことだったのね」 「アレックスとしては女の城に入り込んで行くにはやはり相当な勇気が必要だったみ たいね」 「アレックスらしいわね」 「で、悩殺下着なんかプレゼントされたらどうする? 彼のために着てあげる?」 「その時になってみなければ判りませんよ。アレックスのその時の態度次第じゃない ですか。やだあ……。こんなこと言わせないでくださいよ」  と真っ赤に頬を染めてしまうパトリシア。  二人の会話が示すように、レイチェルが二人が夫婦である事を知っている数少ない 理解者であると、パトリシアは知っている。だから親しみを込めてすべてを話し合っ ている。 「で、今日はどんな下着を着ているの?」 「もう……秘密ですよお」 「にしても今回はスザンナに先を越されちゃったわね」 「参謀の面目丸潰れというところかしら」 「あの作戦プランは、わたしも考え付いてはいたのだけど、あのまま脱出した方が理 にかなっていたから言わなかったの」 「まあ、考え方の違いってことね」
     
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