第十五章 タルシエン要塞陥落の時
V  タルシエン陥落の報がアレックスの元へと届けられた。  通信用スクリーンにフランク・ガードナー少将が出ている。 「すべての艦艇は、一旦シャイニング基地及びカラカス基地、そしてクリーグ基地 へと寄港の予定だ」 「そうか……仕方がないですね。将兵のほとんどが無事だったのは幸いです」 「要塞の再奪取は考えているのか?」 「いえ、今のところは必要ないでしょう」 「そうか……」 「ともかく敵さんとの戦闘記録をこっちに送ってください」 「分かった。一両日中に送るよ」 「よろしくお願いします」  タルシエン要塞陥落を受けて、アルタミラ宮殿鏡の間にて会議が開かれた。  アレックス、パトリシア、二皇女、ゴードン・オニール、スザンナ・ベンソン以 下の参謀たちが集っている。  まずは、タルシエン要塞陥落の詳細映像がモニターに再生された。 「氷の戦艦を盾にして、要塞砲を防ぐなんて思いもよりませんでした」  パトリシアが口火を切る。 「防衛の要でしたからね。それを無効化されてしまっては陥落もやむなしです」  スザンナが感心した。 「この時勢において、要塞を取り返した真意が分かるかな?」  アレックスが問いかける。 「帝国の統一がなされて、共和国同盟も解放されました。連邦にとって、このまま 放っておいては、連邦への逆侵攻の可能性もあると考えたのではないでしょう か?」  ジュリエッタが答え、マーガレットが追加する。 「そこで要塞を落とせば、そっちに視線が回るし、場合によっては共和国侵攻も可 能になるということでしょうか?」 「私たち側から見れば、その逆侵攻に備えて兵力を割いておかなければならないと いうことですね」  そしてパトリシアが答えた。 「殿下はどのようにお考えであられますか?」 「そうだな……」  としばし考えてから、 「講和のための下準備というところかな」 「和平交渉のために、要塞を奪取したとおっしゃられるのですか?」 「現時点での帝国と共和国の総兵力を鑑みるに、戦力差でバーナード星系連邦に勝 ち目はない」  全員が頷いている。 「要するに連邦とて要塞を陥落させるだけの力を持っているんだと誇示することで、 我々が連邦に侵略すればそれ相応の損害を与えることも可能だぞ! と言っている のだよ」 「対等な立場での交渉を引き出すためだったというわけですね」 「まあ、そういうことだ。でなきゃ要塞駐留艦隊を無傷で攻撃することなく退去さ せはしなかっただろう」 「要塞には、ランドール提督の懐刀と呼ばれる将軍や主力艦隊がいましたからね。 それを失ってしまったら、提督も引くに引けない心境になられたでしょう」 「敵もそれを十分承知の上で、総攻撃せずに撤退勧告をしたのでしょうか?」 「私は信じられませんね。司令官のスティール・メイスンって、バリンジャー星域 会戦やベラケルス星域会戦で、星を破壊して艦隊を殲滅させる冷酷非情な司令官じ ゃなかったですか?」 「心変わりじゃないの?」  と飄々と答えるアレックスだった。  敵司令官の心情までは計り知れないというところか。
     
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