第十五章 タルシエン要塞陥落の時
Ⅳ  敵旗艦シルバーウィンド艦橋。 「要塞、沈黙しました」 「うむ、予定通りだ」 「いかがなされますか? 総攻撃なさいますか?」 「いや、要塞にはこれ以上の損害を与えたくないな。戦闘中止だ! 敵司令官に通 信を繋いでくれ」 「かしこまりました」 「全艦戦闘中止!」  要塞との通信回線が開かれる。 「敵司令官が出ました」  通信用スクリーンに、要塞司令官のガードナー少将が出ている。 「私は、タルシエン要塞攻略部隊指令のスティール・メイスン中将です」  自分の姓名と官職を名乗るスティール。 「自分はタルシエン要塞防御司令官、フランク・ガードナー少将です」  同様にガードナーも返答する。 「私は、これ以上の流血は無意味だと思います。なので、要塞を明け渡して貰いた い」  単刀直入に要求する。 「要塞を明け渡す?」 「素直に出て行ってくれるというなら、こちらからは攻撃を致しません」 「攻撃をしないという保証は?」 「私を信じてもらうしかないですね。三時間の猶予を差し上げます。それまでに返 答がなければ総攻撃に移ります」 「分かった。配下のものと相談して、それまでに返答する」 「三時間です」  そう言って、通信を切断した。  要塞会議室に集まったガードナー以下の参謀たち。 「まずは最初に言っておく。ランドール提督からは、この要塞を預かった時にいつ でも放棄しても良いという言質(げんち)を頂いている」 「つまり提督は、要塞を奪取した時から既に放棄することも考えていらしたという ことですか?」 「その通り。要塞の必要性は、その時々の情勢によって変わるものだ」 「しかし撤退するとしても、敵が攻撃しないという保証は?」 「ない……が、信用するしかないだろう」 「再奪取は、ランドール提督にお任せしようじゃないか」 「その必要性があればですけどね」 「この要塞のことは、建設した連邦が一番良く知っている。我々の知りえない情報 も握っているやも知れんからな。決定的な弱点とか」 「あり得ますね。だからこそ、投降を呼びかけているのかも」  建設的でない意見が続いていた。 「これ以上、議論しても仕方がない。結論を出そうと思う、挙手してくれ。撤退に 賛成なものは?」  半分近くが手を挙げ、しばらく考えてから手を挙げた者を入れて過半数に達した。 「撤退に決定した」  議場を見渡して、挙手しなかった者の表情を窺ってから、 「総員に撤退準備! 敵さんとの通信回線を開け!」  通信回線にスティール・メイスンが出ている。 「賢明な判断を感謝する。先にも述べたように、こちらからは攻撃を仕掛けないか ら安心して退去したまえ」 「ありがとうございます。我々は六時間以内に撤退を完了する予定です」 「分かりました」
     
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