第十三章 カーター男爵
V  カーターは病室のベッドの上で目が覚めた。  ベッド脇には点滴の器具があり、左手に繋がれていた。 「あら、気が付かれましたか」  看護師が話しかけてきた。 「公爵さまは?」 「あなたのお蔭で、無事息災ですよ。ご安心ください」 「そうですか……。よかった」 「その公爵様が、謁見を許されております。お会いになられますか?」 「公爵さまが? ぜひお願いします」 「それでは……」  看護師は、車いすを持ち出してきてカーターを乗せて、公爵の御前へと進んだ。 「そなたのお蔭で無事だった」 「当然のことをしたまでです」 「そうか。とはいえ、何か礼をしなければな」  しばらく考えていたが、 「お主は貴族の子孫だと聞いておるが、真か?」 「はい。曾祖父の代に先のウィフム・クロンカンプ伯爵に仕えており、男爵の位を頂いておりました」 「ほほう。男爵とな、何故爵位を剥奪されたのか?」 「詳しくは存じませんが、公金横領の疑いを受けたということを聞いております」 「疑いだけでか?」 「はい。火のない所に煙は立たぬ、ということらしいです」 「そうか……ふむ。ならばお主に爵位を与えよう。そうだな、いきなり男爵というわけにはいかないから、勲功爵からだ。今後の働き次第で男爵位も与えよう。どうだ?」 「目に余る光栄でございます」  そこへ別の人物が連れてこられた。  海賊ドレークである。  今度は、暴行を働けないように拘束具を装着されて、立つのがやっとの状態であった。  従者の一人が進言する。 「この者の名は、フランシス・ドレーク。公爵への暴行は無論のこと、我が国の商船に対する海賊行為による損害は計り知れず、死刑に値するものであります」 「ドレークよ。申し開きはあるか?」  ドレークは無言で答えない。 「釈明も命乞いもしないのだな。まあよいわ」  と、傍に控えていた別の従者に合図すると、ワゴンを押して二人の前に酒の入ったグラスを運んだ。  ドレークの拘束具が解かれる。 「お主の力量を葬り去るのは惜しいのだ。どうだ、我が国の艦隊で、その才能を発揮してはみないか?」 「この俺に軍隊で働けと言うのか?」 「わが軍は平和ボケしていて、まともに戦った士官がいないのでな。お主のような百戦錬磨の強者が欲しいのだよ」 「そうか……いいだろう。で、どれだけの戦力をくれるのか?」 「銀河帝国第一艦隊百万隻だ! その司令長官に任じたい」 「百万隻か、いいね。引き受けた!」 「よろしい。祝杯を挙げよう」  グラスに酒が注がれる。  こうして、マンソン・カーターとフランシス・ドレークが公爵の配下となった。
     
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