第六章 皇室議会
II  そういった情勢の間にも、エリザベス以下マリアンヌまでの皇女達の間では、アレック スを立太子する方向にほぼ同意がなされていた。皇室議会においてジョージ親王がすでに、 皇太子擁立の詮議が確定してしまっている以上、摂政エリザベスをしてもそれを覆すこと はできない。とはいっても再審議の際には、家族協議における一致があれば、それを尊重 しないわけにはいかない。  家族だけが集う午餐会には、アレックスを交えて皇女達が仲睦まじく食事を囲む風景が、 ここしばらく続いている。皇太子誘拐、継承争いにかかる姉妹の断絶、そして連邦軍の侵 略と、内憂外患に煩わされていた日々を清算するためには、まず姉妹の絆を結束すること からはじめなければならない、と誰しもが思っていたからである。アレックスが戻ってき た今こそがいい機会なのだと。  最上位席(つまり食卓の端の席)にアレックスが腰掛けて、その両側に順次第一皇女か ら並んで腰を降ろしている。 「どうも困った事態になりつつあります。摂政派と皇太子派が一触即発状態にまで発展し つつあります」  アレックスの口から最初に出た言葉だった。  それに呼応してマーガレットが答える。 「それもこれも、皇室議会が皇太子問題を棚上げにしているせいよ」 「ベスには悪いけど、皇室議会は摂政派が過半数を占めていますからね」  ジュリエッタも批判的な意見だった。  摂政派……。  誰が最初に言い出したかは判らない。  皇太子候補となったロベール王子と父親のロベスピエール公爵一派というのが、真の意 味での正確な表現であろう。  そして母親であり公爵夫人であるエリザベスが、銀河帝国の摂政として国政を司ってい ることから、誰から言うともなく摂政派と呼称されるようになった。  摂政派という呼称を使われるとき、エリザベスは辛酸を飲まされるような気分に陥る。  しかも血肉を分けた家族から言われる心境はいかがなものであろうか。 「今は摂政派だ皇太子派だと論じている場合じゃない。総督軍の迫り来る情勢の中、早急 に迎撃体制を整えなければならないというのに。とにかく内政に関しては、これまで通り にエリザベスに任せますよ」 「問題は傀儡政権となっている頭の固い大臣達よ。帝国軍を動かすには予算繰りから人事 発動まで、実際に権限を持っているのは大臣なんだから。何かにつけていちゃもんを付け てはなかなか動こうとはしない」 「そうね。今動かせる艦隊は、第二艦隊と第三艦隊だけじゃない。叔父様達の自治領艦隊 は動かすわけにはいかないし……」 「合わせて百四十万隻。総督軍は二百五十万隻というから、数だけを論ずるなら確実に負 けるわね」 「あたしの艦隊もあるわ」  マリアンヌが口を挟んだ。  第六艦隊の十万隻を忘れないでという雰囲気だった。 「そうだったわね。合わせて百五十万隻よ」  十万隻増えたところで体勢に影響はないが……。  幸いにも将軍達は、アレックスに好意的だったので、軍内部での統制はすこぶる良好で あった。
     
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

小説・詩ランキング

11