第一章 中立地帯へ
V  アレックスは、タルシエン要塞においての篭城戦を想定していた。  防御においては鉄壁のガードナー少将が篭城戦の布陣を敷いて総督軍との戦いを長 期戦に誘導している間に、アレックスは銀河帝国との共同戦線の協定を結び、援軍を 得て一気に反抗作戦に打って出る戦略であった。  ところが周辺国家から相次いで救援要請が出され、タルシエン要塞から艦隊を派遣 する必要が生じたのである。 「救援要請への援軍派遣をガードナー提督に意見具申したのはゴードン・オニール准 将です。ガードナー提督はその強い要望に根負けして派遣を受諾したらしいです」 「ああ……。ゴードンはじっとしていられない性格だからな。そして後のことを任せ たガードナー提督が、それを許可したのだから私が言うべきものでもないのだが……。 最大の問題は補給だよ。遠征を行うには十分な補給が必要だ。そのためにシャイニン グ基地とカラカス基地の封印を解いて補給拠点とし、それぞれに一個艦隊の守備艦隊 を配置しなければならなくなった。このことがどういう意味をなすか判るかね?」 「兵力の分散……」 「そうだ。総督軍に各個撃破の機会を与えるだけじゃないか」 「しかし、シャイニングには大型の戦艦を建造できる造船所もあります。フル稼働さ せて戦力を増強できます」 「おいおい。戦艦を建造するのに何年掛かると思うかね。一隻完成させるまでに、最 低三年は掛かるのだぞ。解放軍を支えていくだけの戦力としては期待するだけ無駄だ。 多くを持たない弱体な解放軍が勝利するには、短期決戦しかないのだ」  深い思慮の元に発言するアレックスの意見に反対できるものはいなかった。 「とはいえ……。動き出してしまったものを止めることは、もはや不可能と言わざる を得ない。事ここに至っては不本意ではあるが、解放軍として要請がある限り救助に 赴くのは致し方のないことだ。遠き空の下、解放軍の善戦を祈ろうじゃないか」 「はい!」 「さて、会議の続きをはじめようか。リンダからの報告もあったデュプロス星系につ いてだ」  航海長のミルダ・サリエル少佐が、リンダの報告を受けての補足説明をはじめた。 「デュプロス星系は、二つの巨大惑星である【カリス】と【カナン】を従えた恒星系 で、二惑星の強大な重力によって、三つ目以上の惑星が存在できないものとなってお ります」 「三つ目が存在できない? それはどうして?」  ジェシカが尋ねたが、ミルダはアレックスの方を見やりながら、 「とっても難しい理論の説明をしなければいけませんが……」  と、この場で解説するにはふさわしくないことを暗にほのめかしていた。 「あ、そうね。次の機会ということで、先を続けて……」  それに気がついて、質問を撤回するジェシカだった。  解説を続けるミルダ。 「デュプロス星系は、銀河帝国に至る最後の寄港地です。それゆえに最大級の補給基 地となり、また銀河帝国の大使館なども誘致されております。本来はサーペント共和 国の自治領内にあるのですが、軍事的外交的に重要な拠点惑星として、特別政令都市 国家としての自治権が与えられております。銀河帝国との協定により共和国同盟軍の 駐留が認められていなかったために、現時点においても連邦ないし総督軍の駐留艦隊 はいないとの情報ですが、旧共和国同盟時代から引き続き辺境警備に当たっている国 境警備艦隊がいます。まあ、実戦経験はまるでないので、いざ戦闘となっても脅威は まったくないのですが……」  その言葉尻をついて、ジェシカ・フランドルが答える。 「かつての同輩との戦いになるということね」 「はい、できれば、何とか説得して戦闘回避できれば良いのですがね」 「ランドール艦隊のこれまでの実績を考えれば、戦闘を選ぶことがどれほどの愚の骨 頂である判るはずですけどね」 「そうあって欲しいですね」  ため息にも似たつぶやきを漏らすミルダであった。  ちなみにこのミルダは、あの模擬戦闘にも参加し、ミッドウェイ宙域会戦からずっ とアレックスの乗艦の航海長を務めてきた古参メンバーの一人でもある。階級は少佐 ではあるが、艦長のリンダ同様に一般士官としてであり、戦術士官ではないので艦隊 の指揮権は有していない。戦術士官が必ず受けることになる佐官へのクラス進級に掛 かる査問試験を受けずして少佐になっている。共和国同盟のすべての星系マップ、航 海ルートを知り尽くしており、作戦を実行し宇宙を航海する艦隊にとっては必要不可 欠な人材である。  艦長のリンダにとっては、こちらの方が上官になるので、何かとやりずらい悩みと なっている。  アレックスは一同を前にして毅然と言った。 「何はともあれ、銀河帝国と交渉し協力関係を結ぶためには、そのデュプロスに滞在 して帝国に対しての使節派遣などの折衝を執り行う必要がある。デュプロスはどうし ても確保しなければならない。かつての同輩である辺境警備隊との交戦になることも 仕方なしだ」  その言葉によって、一同の考えは一致をみることとなった。
     
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