陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊
其の参 刀剣乱舞  男のアパート自室。  ベッドの中で裸で寄り添い眠る聡子と男。  男がどうやって聡子を篭絡したかは分からないが、すでに深い関係に陥っていた。  女はすべてを捧げたいと思い、男は自分の物にしたという達成感に酔いしれる。 「実は聡子に頼みたいことがあるんだ」 「なあに」 「七星剣のことを話したよな」 「四天王寺の?」 「そうだよ。その七星剣を手に入れたいんだ」 「でも東京国立博物館に寄託されているんでしょう?」 「ああ、表の七星剣はね」 「表?」 「実は裏の七星剣があって四天王寺の地下に秘密裏に保管されているんだ」 「どういうこと?」  とある深夜、いわゆる丑三つ時。  四天王寺の人気の途絶えた境内を歩く聡子。  表情は虚ろで、何者かに操られているような風であった。  微かに怪しげな光を身に纏ってもいる。  向かった先は中心伽藍から東側へ離れた場所にある宝物館。  周囲をぐるぐると回りながら探っている様子。  やがて探り当てたかのように壁に手を当てる。  その時だった。  境内の照明がすべて消えた。  どうやら四天王寺全体の電源設備が、何者かによって操作され電源を遮断されたよう である。  なにやら呪文を唱えると、壁の一部に巧妙に封印され隠されていた扉が現れた。 「我に従い暗闇を開け!」  静かに開く扉。  庫内は真っ暗だが、見えているかのように確かな足取りを見せる聡子。  そして刀掛台に据えられた一振りの刀剣の前で立ち止まる。  刀剣から刀掛台に掛けて呪符が張られている。  おもむろに呪符を引き剥がすようにして刀剣を手に取る。  封印を解かれたさまざまな怨念が解放され、聡子に襲い掛かる。  しかし手にした刀剣を一振りすると怨念は消し去った。  そして何事もなかったように歩き出し宝物庫を後にして立ち去ってゆく。  四天王寺境内の外に停車している車がある。  刀剣を携えた聡子が近づく。  扉が開いて出迎えたのは、かの男だった。 「ご苦労様」  聡子は黙ったまま刀剣を手渡す。  受け取り確認する男。 「よし、本物だ」  刀剣が微かに震えていた。 「どうした、七星剣よ……そうか、血が欲しいか」  無言で立ち尽くす聡子に目をやる男。 「そうだな。儀式を始めようか」
     
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