陰陽退魔士・逢坂蘭子/第一章・夢魔の標的
其の漆
公園の影から智子が飛び出した。
「智子、後を付けてきたのか」
「目が覚めて制服がなくなっているので、もしかしたらと思ったからよ。教えて、蘭子の
言ったことは本当なの?」
「本当さ、間違いない」
「そんなあ……」
智子の全身が震えている。
涙があふれて止まらないようだった。
「智子。お兄さんは、もう以前の達也君じゃない。妖魔に身体を乗っ取られ、精神を操ら
れているのよ」
「嘘よ!」
そんなこと信じられないと、激しい怒りを蘭子にぶつける智子だった。
「あはは、そいつの言っていることは本当さ。証拠を見せてやろう」
高らかな笑い声を上げると、達也は制服を両手で引き裂いた。と同時に、その身体がま
はゆく輝きだした。
「何が起こっているのよ?」
「メタモルフォーゼ……。再融合よ。妖魔が、お兄さんと一体化して、新しい身体へと変
化しているの」
「止められないの?」
「止められないわ」
達也の身体に変化がはじまった。
胸が膨らみ始め、髪が長くなってゆく。ウエストはくびれ、腰が大きく張り出してくる。
まさしく女体への変貌であった。
「女性を襲って、精気を奪っていたのは、このせいだったのね」
「そうよ。私は男である身体に嫌悪感を持っている。しかし憑依できる身体が見当たらな
かった。だから取りあえずこの身体に憑依して、女の性エネルギーを吸い取って、変身す
ることにした」
やがて再融合が完成したようだ。
元の達也からは想像もできないような完璧な女体。
ため息がでそうなくらいに美しい身体であった。
「どう? 美しいでしょう」
ひときわ長く伸びた爪を舌なめずりする妖魔。
「そのために何人の女性を犠牲にした。精気を半分以上吸い取られた彼女達は、異常なま
での速さで老いさらばえてゆくのだぞ」
「関係ないわね」
「これ以上の犠牲者を出さないためにも、おまえを退治する」
「あら、やるというの? いいわ、かかってらっしゃい」
御守懐剣を、懐から取り出す蘭子。
隙をうかがいながら、じりじりと間合いを狭めていく。
ここぞという瞬間に、懐剣を突き刺すが、ひらりと飛び上がって身をかわす妖魔。
その背には白い羽根が生えていた。
空を飛ぶ能力を持っているようだった。
「あらあら、そんな攻撃しかできないの。なら、手っ取り早く片付けてあげるわ」
空から急降下で、その鋭い爪を突き立てる妖魔。あまりにも素早い動きのために、呪法
を唱える余裕がなく防戦一方となる蘭子。
強襲攻撃を受けて地面に転がる蘭子。
このままではやられると観念した蘭子は、呪符を五芒星に並べて禁呪符陣の結界を張っ
た。
呪符にはそれ自体に、呪法が掛けられているので、素早く結界陣を張ることができるの
だ。
妖魔が急降下攻撃を仕掛けてきたが、見事に結界が防いでくれた。