クローン病?
2019.12.27

○月○日 クローン病?

 とにもかくにも……。
 クローン病である。

 病名が確定すれば治療がはじまるのだが、クローン病には明確なる根治治療法はまだ確
立されていない。
 いわゆる対症療法しかない。
 腸が炎症を起こして腸閉塞となっているわけだから、まずは腸に休養してもらわねばな
らない。
 そのための絶飲食であり、中心静脈点滴によって、高カロリー輸液を滴下して栄養補給
を行う。
 約800キロカロリーの輸液を1日2パック使用する。都合1600キロカロリーで、
1日に必要なカロリーはこれで補える。もちろんナトリウムなどの電解質やビタミンも必
要量含まれている。
 抗生物質や抗がん剤なども投与される。

 実に退屈な日々が続いていた。
 腸閉塞だからといって、手術でお腹を切り開いて閉塞部分を治すわけでもないし、これ
といって有効な治療方法もない難病である。
 ただひたすらに点滴で栄養補給を続け、薬で腸の炎症を抑えて閉塞が治るのを待つだけ。
 時折、レントゲンやCTで状態変化の具合を調べるくらい。
 ただただ、ベッドの上に横になって時間の過ぎ行くのを待ちぼうけの日々。
 何もすることがないので、携帯電話で小説をダウンロードして読んでみる。
 西村京太郎「十津川警部の旅行ミステリー殺人」
 内田康夫「旅情ミステリー殺人シリーズ」
 一冊あたり5~8百円くらいであるが、時間潰しには丁度良い。
 病室では携帯電話の使用禁止が原則である。
 しかし、声を出して電話したり、相手の声が漏れるわけじゃなし、小説を静かに読むく
らいはいいんじゃない?
 見逃してくれるやさしい看護師もいれば、今度見つけたら没収しますなどというお堅い
看護師もいる。
 昼間だと頻繁に看護師がやってくるので、こっそりと読むには夜中ということになる。
 昼間に寝て、夜に起きているという、昼夜の逆転が起こり始める。仕事に就いているわ
けではなく、一日が丸ごと自由時間なので可能なのであるが。
 毎朝4~5時頃に、血糖値の検査がある。たいがいその時間帯は起きている。
 高カロリーの輸液を点滴しているので、血糖値を常に把握しておかなければならないら
しい。
 指先を針で刺して血を採集する。毎回痛い思いをするが一瞬のことである。
 さらに1週間に一度、血液採集もある。

 やがてお待ちかねの、経口食事療法がはじまる。
 腸の炎症が治まり、腸閉塞が改善されたかどうか、ちゃんと食事が摂れなければ、退院
はできないので重要である。
 消化器系病症の定番メニューコースである重湯(十倍粥の上澄み)からはじまる。
 急転直下のごとく、回復してゆく。
 重湯が三部粥になり、五分粥、八分粥。そして全粥になる。
 ここまでくれば、後は退院の機会を諮るだけである。

 最後に一通りの検査を行って異常が見つからなければ退院ということになる。

 そして無事に退院となったのである。
 おめでとう!!

 とは言っても、難病のクローン病である。
 完全治癒したというわけではなくて、症状が安定している時期(緩解)に入ったという
だけである。
 今後も再燃・再発を繰り返し慢性の経過をとることもある。
 これ以上病院での治療のしようがないので、自宅療養に変えて投薬と栄養管理に委ねる
ということである。
 規則正しい食事と睡眠を取りましょうというわけである。


 それからしばらく平穏無事な毎日が続いた。
 入院生活も通算で6ヶ月を越えて、ずっと病院のベッド生活だったので、体力も落ちて
足の筋肉が痩せ細っていた。
 早朝と夕刻の散歩を日課として、健康増進に努める。

 しかし……。
 そんな私を、次なる病魔が襲ったのである。

あっと!ヴィーナス!!第五章 part-5
2019.12.26

あっと! ヴィーナス!!


第五章 part-5


 というわけで、今一緒に風呂に入っている。
 母とはいえ生の女性の裸を目の当たりにするのははじめてだった。そりゃあ、子供の時
は一緒に入っていた記憶があるにはあるが、異性を意識する年頃になってからはまだ一度
もない経験だった。
 あたりまえだ!
 この歳でまだ母と一緒に入っていたとしたら常識を疑う。
 それがいきなり女の子になって、自らの裸をさらすことも重なって、恥ずかしさの極み
だった。
 とにかく入浴は、裸と裸のぶつかり合い、じゃなくて……ちょっとエロチックな状態に
あるといえた。生身の女性の裸体をさらけ出し合って身体を洗いっこしたりして、
「いやーん。そこ、くすぐったい」
「あらん、ここが感じるのね」
 とか言いながら……。
 ちがう! ちがう!
 なに考えてんだよ。
 …………。

 胸もあそこも隠すわけにはいかないから恥ずかしくて、見られるくらいならずっと湯船
に浸かっていたいくらいだ。
 それじゃあ、のぼせちゃうって。
 でも母はまるで気にもかけていない。そりゃまあ、これまでにも公共浴場に入ったこと
は数知れないだろうし……。身を分けた実の娘だもんな。
「いい? 女の子の肌はソフトに洗わなければいけないの。特にお顔は念入りに専用の洗
顔フォームを使わなくちゃだめよ。普通の石鹸はアルカリ性で肌を傷めちゃうのよ。だか
ら中性か弱酸性タイプの洗顔フォームが必要なの。洗うときはよーく泡立ててから使うの
よ。泡で汚れを落とすかんじよ」
 とにかく一から十まで、噛んで含ませるように丁寧にレクチャーしてくれる。
「ああ……。やっぱり女の子はいいわよねえ。こんなにも色白で柔肌で、もちもちっとし
た感触が最高よ。それに何より一緒に入れるのがいいわよね。これからも一緒に入りまし
ょうね」
 あ、あのねえ……。
「弘美ちゃん、いいわよね?」
 なんて目をじっと見つめられて真剣に尋ねられたら、
「う、うん」
 と、答えるしかないじゃないか……。
 しようがない、お願いを聞いてあげよう。親孝行の一貫ということで、母親だし。

「だめだめ、だめよ!」
 風呂から上がって身体を拭っている時だった。
「身体はともかく、お顔はそんなにごしごしやったらだめじゃない。刺激には一番敏感な
肌なのよ。いい? そっとタオルで押さえるようにするの。押さえるようによ」
 とにかく、一つ一つの動作にチェックが入る。
 なんて面倒なんだ。
 さらにはドレッサーの前に座らされて、就寝前のお肌の手入れだった。
「中学生に化粧は必要ないとは言うけれど、お肌を常に最高の状態に保つためには、やは
り手入れは絶対よ。アルカリに傾き加減の肌を弱酸性にするためのローション。入浴で失
ったお肌を覆っていた脂肪を補って、水分の蒸発を避けるための乳液。ちゃんと毎晩しっ
かりと手入れをしなくちゃ」
 もう……うんざり。
「聞いてるの?」
「聞いてるよ」
「はい! これで完璧よ」

 母から解放されたのはそれから三十分後だった。
 女の子としての在り方のうんちくをさんざん聞かされた。
 こんなことが毎日繰り返されるのだと思うと……。

 頭が痛い!

「だから、わたしがあなたのそばに付き添っているのよ」
 ヴィーナスの声が聞こえたような気がした。
 いや、確かに脳裏に語り掛けてきたようだ。
 いついかなる時も、ヴィーナスの庇護下にあるようだ。

 パジャマに着替えようとタンスを開けてみると。
 ない!
 以前着ていた男物の衣類が一切なくなっていた。
 捨てられた?
 学校に行っている間にだろう。
 女の子になったからには、もう必要のないものとはいえ、愛着のある服もあった。それ
を無断で処分されては気分を害された感じ。
「いつまでもうだうだ言ってんじゃないよ。いい加減あきらめな」
 ヴィーナスの声だ。
 四六時中監視されているというところかな。
 ところで女神も寝るのだろうか?
 酒なんか飲んで酔っ払っているところをみると、いかにも人間臭いからやはり寝るんだ
ろうな。
 しようがねえな……。
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中心静脈点滴
2019.12.26

○月○日 中心静脈点滴


 やがて劇的な報告がなされる。
「クローン病ではないか?」
 という仮診断が下されたのである。
 連日のような消化管造影検査(注腸造影)や内視鏡などによる腸内検査も、これを確
定させるためのものだったのである。
 クローン病(クローンびょう、英:Crohn's disease; CD)は、主として口腔から肛門
までの消化管全域に、非連続性の炎症および潰瘍を起こす原因不明の疾患である。
 本疾患における病変は消化管の粘膜から漿膜までの全層を侵し、進行すると腸管が狭く
なる狭窄によって腸閉塞をきたすことや、腸管に穴のあく穿孔や瘻孔(ろうこう)、それ
らに膿が溜まった膿瘍ができることがある。潰瘍性大腸炎とともに炎症性腸疾患(英:w:
Inflammatory bowel disease; IBD) に分類される。
 膠原病の一つで、特定疾患治療研究事業【医療費助成制度】(対象:56疾患)の一つに
入っている難病であった。
 発症の原因不明、根治治療方法もない。
 治療は対症療法しかなく、生涯薬を飲まなければならないという難病である。

 その日から、点滴の方法が変わった。
 中心静脈点滴というものである。
 今までは、腕から点滴の針を刺していたのだが、鎖骨のところの静脈(鎖骨下静脈)か
らカテーテルを通して、心臓の近くを通る上大静脈に直接輸液を注入するという方式であ
る。脚の付け根の下大静脈から点滴を行うこともある。
 寝たきりの人なら脚からの点滴を選択できるだろうが、動き回れる健康人なら鎖骨下か
らの点滴ということになる。

 これは、高濃度・高カロリーの輸液を滴下できるようにするためのもので、腕からの末
端静脈点滴では 血管炎や血栓を起こすからである。
 血管炎を起こしやすい抗がん剤の滴下や、カテーテルを通して中心静脈の静脈圧が測れ
たり、体液量の増減やうっ血性心不全の程度を把握するのに役立つ。
 もちろん看護師にはカテーテルを通すなどの施術を行う資格がないので、当然主治医の
出番となる。
 静脈に通したカテーテルは抜けないようにしなければならないので、鈎針のようなもの
が三本ついていて皮膚に引っ掛けるようにして固定する。さらに上から固定テープを張っ
て動かないようにしておく。

 クローン病の治療薬として、メサラジン(ペンタサ錠250 等)が追加された。

 ああ……。
 それにしても、鼻からの導入管から解放されて、食事が出されるかと期待したのだが、
当分の間はお預けという状況になったのである。

 寂しい……。

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