銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 I
2020.04.18
第七章 反抗作戦始動
その頃。
対戦相手の総督軍艦隊も着々と銀河帝国へと進撃していた。
旗艦ザンジバルの艦橋の指揮官席に着座する、戦略陸軍マック・カーサー大将。
共和国同盟総督となったのを機に大将に昇進していた。
「奴は本気で百五十万隻で我々と戦うつもりなのか?」
「そのようです」
「信じられんな。狂気としか思えんが」
「ランドール提督のこと、また何がしかの奇策を用意しているのでしょう」
「奴が戦ってきたのは、せいぜい一個艦隊程度の戦術級の戦いだ。これだけの大艦隊を率
いた国家の存亡を掛けた戦略級の戦いなどできるわけがない」
「なるほど未経験ならば勝てる算段も難しいというわけですか」
「この戦いは艦隊同士の正面決戦になる。戦略級では数が勝負なのだ」
「なるほど、納得しました」
丁度その時、給仕係が食事を運んできた。
「お食事の時間です」
ワゴンに乗せられた料理に手をつけるカーサー提督。
それを口に運びながら、
「また、これかね。たまには肉汁たっぷりのステーキを食いたいものだ」
携帯食料に不満をぶつけ、苛立ちを見せている。
「贅沢言わないでくださいよ。ここは戦場なんですよ」
バーナード星系連邦は、長期化した戦争により、慢性的な食糧不足に陥っていた。
働き手が軍人として徴兵されているがために、農地を耕す労力が足りないからである。
足りない食料は、銀河帝国からの輸入にたよっていたが、十分に充足できるものではな
かった。
庶民の不満は、厳しい軍事政策によって抑制されていた。
「欲しがりません、勝つまでは」
日頃からの教育によって、贅沢を禁じられ、いや贅沢という言葉さえ知らないのである。
慎ましやかに生活することこそが、美徳であるとも教え込まれている。
とは言うものの、それは一般庶民や下級士官の話である。
将軍などの高級士官ともなると、肉汁したたるステーキが毎日食卓に上る。
しかし戦場では贅沢もできない。
戦艦には食料を積み込める限度というものがあり、狭い艦内では下級士官の目が常にあ
るからである。
戦時食料配給に沿って、将軍といえども下級士官と同じ食事を余儀なくされていた。
カーサー提督は話題を変えた。
「それよりも、本国との連絡はまだ取れないのか?」
「だめです。完全に沈黙しています」
「本国とのワープゲートも閉鎖状態です」
「やはり、クーデターが起きたというのは本当らしいな」
「そのようですね」
「我々が銀河帝国への侵攻を決行したのを見計らって、クーデター決起するとはな」
「タルシエン要塞が反乱軍に乗っ取られ、本国側のワープゲートをクーデター軍に押さえ
られては、鎮圧部隊を差し向けることも叶いません」
「連邦でも屈強の艦隊をこちら側に残していったのも、クーデターをやり易くするための
方策だったのだ」
「精鋭艦隊はメイスン提督の直属の配下ではありませんからね」

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銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第七章 宇宙へ Ⅲ
2020.04.12
機動戦艦ミネルバ/第七章 宇宙へ
ワープゲートに近づくミネルバ。
「付近に艦隊は見当たりません」
「ウィング大佐の流した偽情報に、まんまと引っかかったようですね」
レイチェル率いる情報部は、総督軍の統制コンピューターにハッカー攻撃を仕掛け、ラ
ンドール艦隊が接近中との偽情報を流したのである。厳重なセキュリティーに守られた軍
のコンピューターがゆえに、まさか侵入されているとは毛ほども疑っていなかったのであ
る。もちろん、闇の帝王とあだ名されるジュビロ・カービンが背後で動いていたことは、
知る由もない。
「しかし情報一つで、敵艦隊を動かすことができるなんて、さすがウィング大佐です」
「感心してないで、行動に移しましょう。コントロールセンターのドッグベイに接舷して
ください」
ワープゲートは、ワープが行われるゲート部分と、ワープをコントロールする部分とで
構成されている。
「突撃部隊は接舷ベイに集合してください」
ミネルバは、第八占領機甲部隊メビウス所属である。占領に携わる白兵戦用の精鋭部隊
も揃っている。
「接舷しました」
「突入せよ!」
なだれ込むように白兵部隊が、コントロールセンターに突入した。
センターにいるのは、ほとんどが科学・技術職員なので、占拠が容易かった。
「コントロールを奪取しました」
突入部隊より連絡が入る。
「シャイニング基地へのワープゲートを繋いでください」
「了解しました」
というところで、タルシエンにいるフランク・ガードナー少将に連絡を取る。
「おお、待っていたよ。早かったな」
万事了解済みという風に答えるガードナー。
「トランターのワープゲートを奪取しました」
一応報告するフランソワ。
「判った。既にシャイニングに三個艦隊を待機させている。ゲートが繋がり次第、そっち
へ転送する」
「お待ちしております」
通信が切れた。
「我々は、このワープゲートを死守します」
「偽情報に惑わされた防衛艦隊が引き返すのが早いか、シャイニングからの援軍がワープ
してくるのが早いか。時間との競争ですね」
「それに地上からの追撃隊もあります」
言うが早いか、
「急速接近する艦があります」
オペレーターが警報を鳴らした。
「早速おいでなすったわね。総員戦闘配備!一旦ゲートから離間する」
敵味方を識別する必要はない。メビウスには宇宙へ上がれるのは、このミネルバだけだ。
ゲートから離間するのは、接舷したままでは戦闘できないからだ。
戦艦プルートの艦橋。
「ワープゲートに到着しました」
正面スクリーンには、ワープゲートに接舷するミネルバがあった。
「遅かった。ゲートは敵の手に墜ちたようです」
「ミネルバが回頭して、艦首をこちら側に向けようとしています」
「原子レーザー砲を使うつもりだ。軸線上に入らないように気をつけろ」
原子レーザ砲は、大気圏内ではエネルギー減衰が激しいが、宇宙空間に出れば百パーセ
ントの能力を引き出せる。ミネルバ級に搭載されていたのも、この宇宙に出ることを前提
としていたからだ。
「破壊力も射程も桁違いだ。こちらは長距離ミサイルで応戦しろ!」
双方十分離れた距離からの戦闘ゆえに、相手に十分な損傷を与えることができない。
やがて、ワープゲートが反応した。
次々と艦艇が姿を現したのである。

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銀河戦記/鳴動編 第二部 第六章 皇室議会 VI
2020.04.11
第六章 皇室議会
変わって首都星アルデランのアルタミラ宮殿。
皇室議会が召集されていた。
議場の正面には、パネルスクリーンに銀河帝国統合軍艦隊の勇姿が投影されていた。
「第一皇子殿下が出撃されて十八時間になるが、何か変わったことはないか?」
「特に変わったことは……」
「中立地帯を越えるのは、いつ頃になるか?」
「およそ三日後になるかと」
「しかし、けしからんな。報道機関がこぞって皇太子殿下などと呼称している。我々は、
皇太子継承をまだ認めていないぞ」
「そうは言っても、民衆の間ではすでにアレクサンダー第一皇子を皇太子として受け入れ
ているようだ」
「戦争に報道機関を従軍させるとは、何を考えているんだ」
「民衆に対する人気取りに決まっているだろう」
「そうかな。自分には自信の程が窺えるのだが……」
「それにしても、総勢百五十万隻で敵艦隊二百五十万隻と本気で戦うつもりだろうか」
「そうでなきゃ。出撃しないだろう。何せ共和国同盟の英雄だからな。連戦連勝、向かう
ところ敵なしの無敗の智将。圧倒的に敵が有利な戦をもひっくり返して勝ち続けたという
実績もある」
「不意打ちとか待ち伏せ、姑息で卑怯な戦いをするともいうが」
「まさか、一対一で向き合って『やあやあ、我こそは源氏の頭領、源の何がしである…
…』とか言うのが正論だと言わないだろうな」
次々と、ぼやきにも似た発言を続ける議員達だった。
アレックスの悪口ばかりだったが、一人が話題を変えた。
「委任統治領の領主達が、独自に判断して警備艦隊を引き連れて参戦しているようだが」
「摂政派の領主達も参加しているというじゃないか。止められなかったのか?」
「謀反だな。領地没収だな」
「できるのか?」
「今からでも遅くないだろ。呼び戻せないか」
「どうやって?」
「何とでも言えるだろう。公爵殿の意向だと言えば引き返すさ」
「馬鹿言え! 銀河帝国の存亡を掛けて出撃している第一皇子の下に馳せ参じているんだ
ぞ。『帰れ』などと命令できるわけがないじゃないか」
一同が口を噤んだ。
摂政エリザベス皇女より、銀河帝国元帥号及び宇宙艦隊司令長官を拝命したアレックス。
その地位は本来、皇太子殿下にのみに与えられるものである。
すでにアレックスは絶大なる権限を有し、銀河帝国艦隊を自由に動かすことのできる地
位にあるのだ。
たとえ地方の警備艦隊といえども、アレックスがひとたび命令を下せば従わねばならな
い規則になっている。
「こうなる前に、戒厳令を布いておくべきだったか」
「誰が予測できたというのだ」
「もし、この戦いでアレクサンダー皇子が勝てば、民衆に対する人気は絶大なものにな
る」
「そうだな。いくら公爵といえども世論には逆らえまい」
議論は堂々巡りで進展しない。
誰かが発言した。
「こうしたらどうだろう。今この時点で論じ合っても詮無いこと、結果が出てからでも遅
くないのではないか」
「それもそうだ」
意見は一致した。
皇太子擁立問題は、第一皇子の総督軍との決戦を見届けてからということになった。
「それでは、そういうことで閉会とする」
第六章 了

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- CafeLog -
2020.04.18 18:00
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