梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件
(八)火と水
「火起こしかかりの方はお集りください!」
呼ばれて、梓と慎二らが集まる。
火起こしの方法は、火打石法と木による摩擦熱法がある。
火打石には、鉄分を含む黄鉄鉱や白鉄鉱などが挙げられるが、無人島にはまずな
いので摩擦熱法ということになる。
これには、きりもみ式とひもぎり式がある。
きりもみ式は、とんでもなく手や腕が痛くなるので、ひもぎり式をお薦めする。
必要な物は、
1、ハンドピース(軸受け)
2、弓と蔓(弓は硬くてあまり曲がらないものが良い)
3、火きり棒
4、火きり板
5、適当な葉一枚(火種を移すために使う生のもの)
6、台座板(作業を安定させるための台となるもので無くてもよい)
などである。
この他に火種を移す枯草やシュロなどの樹皮をほぐした繊維などが必要。
「下準備として、枯草をシュロ樹皮繊維で包むようにしておきます」
藁苞(わらづと)納豆をご存じだろうか?
あの藁苞のように、納豆の替わりに枯草を詰め込んで火種を移すものだ。
火種が風で飛び散らないようにするとともに、保温効果を持たせる。
「本当は道具も手造りして欲しいところですが、それだけで日が暮れてしまいます
ので、すでに用意してあります。火おこしの作業だけ体験して頂きます」
梓がIRの説明する通りに、火おこしにチャレンジする。
「ええと……ハンドピースの窪みに、弓蔓を絡ませた火きり棒を噛ませて、火きり
板に押し当てながら、弓を引いて回転させる……」
やがて煙を発生させながら、火きり棒と板から火種となる熱せられた黒焦げのお
が屑が出てくる。頃合いよしとみて、おが屑を先に用意していた藁苞に中へ移す。
「あちちっ!」
うっかりおが屑に触れてしまった。
なんとか移し終えて、藁苞の中の火種が大きくなるように、フーフーと息を吹き
かける。強く過ぎても弱すぎてもダメで、頃合いを見ながら慎重にフーフーする。
やがて藁苞の中から炎が燃えがる。
「やったあー!」
後は、その小さな炎を、焚火へと大きくするだけだ。
一方の水採取係の絵利香の方も、IRの説明を聞きながら、道具をセットしていた。
「水を採取する方法は、いろいろとありますが、一番有名なのが蒸留法ですね」
砂漠や海岸などで有効なのが、穴を掘っておいて上に弛ませるようにビニール
シートで覆って、太陽の熱で地面から蒸発する水分を凝縮させて、滴下する水を瓶
などに受け止めるという方法である。地面が乾燥していたら、おしっこを穴の中に
という手もある……。
砂浜ならいくらでも海水が浸透して入ってくるので好都合だ。
早速穴を掘ってシートを被せる作業に入る。
後は、時間が経つのを待つだけである。
「別の方法もあります」
ビニール袋の中に、島に生えている青草を入れて、日に当てておくと草に含まれ
る水分が抽出できるという方法だ。
早朝ならば、足にタオルなどを巻いて草むらを歩き回れば、朝露を吸収して絞れ
ば水が採取できる。一時間ほど歩けば、一リットルほどの水を集めることができる。
他にも、ろ過方法もある。
小石や砂、焚火の燃えカス、布切れなどを筒状のものに、層をなすように積み重
ねて濾過器が作れる。海水の塩分は濾過できないが、泥水などを濾過するのには良
いだろう。
参考画像
食料採取班は、IRから提供された道具で魚釣りしていたり、木の実などを集め
たりしている。食用になるかどうかは、後でIRが選別することになっている。
もう一つの宿営地設営係は、十人用テントの組み立てを始めている。
強烈な太陽を避けるために適当な木陰で下草があまり生えていない場所が良い。
下草が多い場所は、湿気も多いからである。
作業中には、木の上からの落下物にも注意する。虫や樹液などが落ちてくること
もあるから。