続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇
(十)奥義炸裂! 「馬鹿が! 俺のテコンドーを交わした奴はいないんだぜ」  動かない慎二。 「気絶したか……。たいした奴じゃなかったな」  と、梓の方へ歩み寄って行く俊介。 「君が、どうしてあんな野蛮な奴と付き合っているのかは知らないが、君にはふさわ しくない」  それをさえぎるように言葉を繋げる梓。 「この僕が理想の男性だ。とでもいいたいのか?」 「その通りだよ。財力、学力、ルックスとも最上だ」 「言ってろよ。それより、決闘を放棄するつもりか?」 「放棄? 奴なら死んだ」 「ははん。後ろを見てみろよ」  俊介が振り向くと、大木に寄りかかるようにしながら、ゆっくりと立ち上がろうと する慎二の姿があった。 「馬鹿な! 僕のヨブリギを受けて立ち上がった奴はいない」  その声に答える慎二。 「それが、ここに居るんだよな」  すでにしっかりと両足を踏ん張って立ち上がっていた。 「この死にぞこないめが」  そして再び俊介に挑みかかって行った。  俊介は今度もその攻撃を交わして反撃を加えた。 「ネリョチャギ・チッキか!」  脳天蹴りという、足底を真上から打ち下ろす蹴りを受けて、俊介の足元に臥す慎二。  しかしすぐに立ち上がった。  起き上がっては挑みかかって倒されるというのを繰り返していた。  半月蹴り(パンダルチャギ)。接近した間合いから外廻しまたは内廻しで蹴る技。  後ろ蹴り(ティチャギ)。振り向きながら直線的に蹴る技。 「しかし、すごいな。あれだけ大きく足を振り回しているのに、全然体勢が崩れてい ない」  感心している梓。  そのそばで心配顔の絵利香。 「そんな悠長なこと言ってていいの? 慎二君、やられっぱなしなのよ」 「大丈夫だよ。そのうちにけりがつくよ。もちろん慎二の勝ちだ」 「どうしてそうなるの?」 「よく見ろよ。俊介の息が上がってきているよ」  梓の指摘の通りに、俊介は汗を流し呼吸も乱れて、肩を震わせていた。  どうやらこんなにも長期戦を戦ったことがないのだろう。  一方の慎二は身体中傷だらけになってはいるが、しっかりと両足で立ち意識も明瞭 のようであった。 「な、なんてしぶとい奴なんだ」 「教えてやろう。おまえが対戦した相手は、せいぜい試合でのことだろう。百戦錬磨 で鋼の肉体を持つ俺には、どんな技も体表面を傷つけはするが、五臓六腑には届くこ とはない。どんなに傷ついてもすぐに回復するぜ。そして俺の喧嘩拳法は、相手に合 わせて無限に進化する究極の技だ。テコンドーなんざ、空手を模倣した猿芝居にすぎ んわい。テコンドーの試合を見たことがあるが、足を振り回すだけのダンスだよ」 「言わせておけば!」  俊介の足技が再び飛んでくる。  しかし慎二はそれを交わしたのだった。 「は、はずしたあ!?」  足技が宙を切り、体勢を崩す俊介。  次の瞬間だった。 「真空透徹拳!」  慎二が掛けた技が決まり、宙を舞って吹き飛ぶ俊介。  どうっ、とばかりに地面に激突してそのまま気絶してしまった。  ついにというか、勝負は一撃で決まった。  慎二が放った大技に茫然自失となる梓だった。 「あ、あれは……。聖龍拳!」  それはかつてスケ番蘭子との決闘で梓が見せ付けた、沖縄古流拳法の一撃必殺の奥 技、聖龍掌に他ならなかった。  放心したように呟く梓の声が聞こえなかったのか、 「慎二君、すごいね。たった一撃で倒しちゃったよ」  絵利香は興奮した表情で、慎二のほうへ駆けていった。 「おうよ。俺は、無敵だからな」  こうして決闘は慎二の勝利で終わった。
     
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