続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇
(九)決闘! 「おい、梓ちゃん。映画とかでよく見る光景だけど。もしかして、これって……決闘 だっ! ってやつじゃない?」 「もしかしなくても決闘の申し込みだよ」 「やっぱり!」 「貴様のような奴に、いくら口で言っても判らないようだからな」 「おう! やったろうじゃないか。で、決闘の方法は?」  決闘を申し込まれたというのに、明らかに喜んでいる風の慎二。 「最近、暴れていないからなあ……。腕が鳴るよ」  指をぽきぽきと折り鳴らしながら臨戦態勢に入ろうという感じか。 「野蛮な貴様のことだ。どうせ、喧嘩ぐらいしかしたことないのだろう」 「おうよ。喧嘩は三度の飯より好きだぜ」  という慎二に頷く絵利香。 (まあ、最近は梓ちゃんの手前、手を出すのを控えて耐えているのをよく見かけるけ どね)  その屈強な精神と肉体を有する慎二には、心配するようなものはなさそうであるが、 相手の俊介の方が、やはり気になるところではある。 (大丈夫かしらね……) 「いいだろう。決闘の方法は、自分の腕と足が頼りの拳法ということにしようじゃな いか」 「拳法か……。いいね、それでいこう」  というと後ろに下がって構える慎二。  俊介の方も、片足を引き両腕を軽く胸の前に置いて構えていた。  そんな俊介の構えを眺めている梓。  さながら自分を取り合って決闘をはじめた相手を前に、心配顔で成り行きを見守ろ うとしているお姫様って様子だろうか。 「ふうん……。見たところ、隙だらけって感じだけど。誘いの隙ってやつかな」  二人は対峙したまま動かなかった。  相手の様子を窺いながら、出方を待っているのだ。  慎二も不用意に仕掛ければ、相手の思う壺というのが判っている。 「どうした、掛かってこないのかい?」  俊介のほうから言葉をかけてきた。 「いやなにね。貴様のテコンドーの足技を警戒しているだけなんだけどね」  その答えを聞いて表情を変え、感心したような口調で返す俊介。 「ほう……構えだけから、私の得意種目を言い当てるとはただものではないな」 「百戦錬磨だからな。いろんな奴とやってる中には、テコンドーを武器とする奴がい たというわけさ。足技はリーチが長く破壊力も抜群だからな。一撃必殺、そうやって わざと誘いの隙を作って、相手が殴りかかってくるのをじっと待ってるのさ」 「さすがだな。そこまで見切っているとはね。こりゃ、早まったかな」 「何をおっしゃる。自信満々のくせに」 「しかし、こうやって睨み合っていても勝負はいつまでたってもつかないぞ」 「そうだな。ここは一発、相手の実力を測るためにも、あえてその手に乗ってみるも んだ」 「こっちはいつでもいいぞ」 「では、いくぜ!」  というと、相手の懐に向かって突進する慎二。  俊介はそれを軽く交わして、大きく足を振り上げた。 「ヨブリギか!」  慎二を交わして、俊介が仕掛けた技は、ヨブリギと呼ぶ逆廻し蹴り。内側から横に 振るように蹴る技である。  技が見事に決まって吹き飛ぶ慎二。そばにあった大木の幹に激突し、その根元に崩 れ落ちた。
     
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