梓の非日常/終章・生命科学研究所
(四)再会の時  部屋を抜け出して元来た通路を通って研究所へ向かう。  そして例の頑丈な扉の前に戻ってきた。 「さて……使えるかな……」  早速IDカードを挿入口に入れ、指紋照合機に手をあててみると……。  開いた! 「あはは……。本当に開いちゃうなんて、このIDカードってすごいんじゃない?」  しかし反面、カードをなくすと大変なことになることにも気がついた。 「大切に扱わなくちゃね……さて、この先に何があるかな……」  そっと慎重に足音を忍ばせて、先の通路へと進みだす梓。  途中研究員に出会ったら、叱られて追い出されるかな……、それとも資源探査船の 時のように自由に見学させてくれるか……。  何はともあれ問題は、 「うーん。どこの研究室かな……」  通路にはいくつかの各研究室の扉があったが、研究名を示す掲示板などは一切なか った。何を研究しているかを知られないための、セキュリティーの一貫なのであろう。  さっきのようにIDカードを使えばどの部屋にも入れるだろうが、まるで関係のな い所に入ってもしようがないし、研究員がいれば一悶着は避けられない。 「あれ……?」  扉が半開きの部屋があった。  まるで梓を誘っているかのように感じた。 「行ってみよう。鬼が出るか、蛇が出るか……」  そっと静かに、その研究室の中へ入って行く梓。 「な、何これ!」  中に入って驚いたのは、よくSF漫画なんかに出てくるような、培養カプセルとも 言うべき装置の数々だった。ガラス製の円筒の中に液体が満たされ、その中に多種多 様の動物が浮かんでいた。下から出ているの泡はたぶん酸素であろう。 「これって、もしかしてクローン細胞かなんかの研究しているの?」  だとすれば生命科学研究所として、らしいと言えなくないが……。  現実世界からSF未来にスリップしてきたみたいな異様な風景であった。  犬、猫、……そして猿と、おおよその主要な種を代表する動物が、培養(?)され ていた。さすがに人間の姿は見られなかった。もしあれば倫理上の問題となるところ だ。  カプセルの間を歩きながら奥へと進む梓。  意外に結構広い研究室だった。  それだけ重要視されている研究分野なのであろう。 「あれは!」  ずっと縦形のカプセルだったが、正面奥の方に横形のカプセルがあった。 「なんだろう……。中に何か入っているようだけど……」  近づいて行く梓。  近づくにつれてそれははっきりとしてくる。 「う、うそでしょ」  その中に収められた個体は、明らかに人間と思われた。 「これは!」  それはまさしく人間だった。  カプセルは冷たく、明らかに中は冷凍状態と思われる。 「まさか冷凍睡眠?」  麗香から聞かされた、この施設の研究項目に冷凍睡眠というものがあったはずだ。 「まって、この顔はどこかで……」  記憶の中に、それはあった。 「長岡浩二君だよ」  背後から声がした。  驚いて振り返る梓。  追っていたあの研究者だった。 「こんな所で会えるとは意外ですね。梓お嬢さま……いや、長岡浩二君と言うべきか な」 「え?」  どういうこと?  どうしてあたしを浩二と……。  この人は、何かを知っている。 「あなたは、長岡浩二君だ。いや、といっても心の中の一部分ですから、あなたはや っぱりお嬢さまですな」 「なぜ、それを……どうして知っているの?」 「あはは……。なぜなら、浩二君の記憶の一部を、お嬢さまの脳に移植したのがわた しだからですよ」 「移植した?」  信じられなかった。
     
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