梓の非日常/第七章・正しい預金の降ろしかた

(一)おしゃべり  放課後の校門前。  手を振りながら別れる梓と慎二。 「梓ちゃん」  自分の名を呼ぶ声に梓が振り返ると、絵利香とクラスメート達が歩み寄ってくる。 「ねえ。みんなでおしゃべりしようって、これから喫茶店に行くんだけど、梓ちゃん もいらっしゃいよ」 「ねえねえ。行きましょうよ」  愛子が後ろから梓の肩を押していく。  ……おしゃべりねえ。絵利香ちゃん以外の女の子同士の会話って苦手なんだけど… … 「う、うん」  近くの喫茶店に向かって歩きだす女子高生達。  城下町川越の町並みをそぞろ歩きながらも、女の子の会話は尽きない。  観光名所となっている初雁城址、時の鐘を経て蔵造りの町へと続く。 「あ、ここよ」  菓子屋横丁の近くに店を構える和風喫茶に入る女の子達。  テーブルは満席だったが、梓の姿を認めた一グループが、軽く会釈して席を開けて カウンターに移動したのだ。どうやら青竜会の一員のようだ。 「好意は無碍にするものじゃないものね」  せっかく開けてくれたテーブル、相手に軽く手を振って遠慮なく座る梓とクラス メート達。  六人席に座る女子高生のそれぞれの前に、それぞれが注文した品物が並んでいる。 「ねえ。真条寺さん」 「梓でいいわよ。あたしもあなたのこと愛子って呼ぶ」 「んーっ。じゃあ、梓さん」 「なに」 「沢渡君とはどういう関係なの?」  単刀直入に切り出してきた愛子。 「なにを、いきなり」 「だって結構親しげじゃん」 「あいつとは何でもないよ。ただの喧嘩友達ってところよ」 「ふうん。喧嘩友達ねえ」 「二人は、沢渡君とは初対面だったんでしょ」 「うん。入学式にいきなり喧嘩して、投げ飛ばしちゃんだよね」 「なに、それ。沢渡君を投げ飛ばしちゃったっていうの」 「うん。あいつと会う時はなぜか喧嘩ばかりしてた」  入学式の時、二人で暴漢達とやりあった時、そしてスケ番の時。それぞれの時の状 況を思い出している梓。 「そうこうしているうちにさあ。何故か馬が合っちゃったというか……」 「でもさあ。沢渡君って、変わったわよね」 「そうそう、悪魔をも恐れさせると言われた、あの沢渡君よ」 「うん。沢渡君も、梓ちゃんといる時だけは、やさしい表情を見せるよね」 「そうなのかな……」 「やさしい表情といえば、ここ最近ぎらぎらした目つきのいかにもスケ番というよう な人達がいなくなったよね」 「そうそう。縄張り争いでさ、対抗グループが島荒らしをしていないか、見回りして たみたいだけど」 「噂では、スケ番の二大勢力が一つに統合されたって聞いたけど。縄張り争いがなく なったせいじゃないかな」 「よほど強力な統率者が現れたんでしょう」 「ねえ。梓さん、沢渡君から何か聞いてない?」 「そうねえ。沢渡君なら、裏の事情をよく知ってると思うよ」 「さ、さあ……聞いてないわ」  女子生徒達の会話に冷や汗かきっぱなしの梓。まさかその当事者が自分などとは口 に出しても言えない。  それを横目で見ながら、ほくそえんでいる絵利香。
 
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