美奈の生活 for adlut episode-1
「二人の娘である美奈の存在だな」
俊介が答える。
「夫婦として上手くいっていたとしても、娘がいなくなったら大事件よね」
「それでおまえが、美奈として戻ってきたというわけか?」
「そういうこと……」
「おまえは、今後俺達の娘として生活するというのだな。それも扶養家族として養っても
らおうという魂胆か」
「しようがないでしょ。美奈は中学生で生活能力がないんだから」
「よくも抜け抜けと言えたものだ」
「でも美奈がいないと困るでしょ」
確かに言うとおりだった。
つい先ほども相談が持ち上がったばかりである。
俊介と加奈子という夫婦があって、その娘の美奈という図式は、すでに社会的に確立さ
れていることである。
美奈という存在は不可欠であった。
「確かに言うとおりなのだが……」
理屈では判ってはいるもの、素直に納得できるものでもない。
と、それまでじっと聞き役に回っていた加奈子が口を開いた。
「それで……。静香さんのことはどうなっているの?」
静香が生まれ変わって美奈としてここにいる以上、その元の身体がどうなっているかが
疑問であった。
「さあ……」
「さあって、知らないの?」
「美奈の身体を手に入れる代わりに、静香の身体は組織の手に渡ることになっていてね、
その後のことは一切関知しないことが取り決められていたのよ」
「静香さんの生活や、いなくなって困る人だっているでしょ。社長秘書やってたわけだ
し」
「社長秘書ねえ……。これって意外と楽じゃないのよね。給料はいいけど、セックスの対
象としてしか考えない取引先の御連中の相手をするのも大変なのよ」
「豊胸したら今まで断られていた契約が取れたって件ね」
「そう。セクシャルハラスメントの中に生きてきただけって感じが否めなかったわ」
「それで人生をやり直そうと考えた……」
「そういうこと」
三人がほとんど同時にため息をついた。
結論はすでに出ているも同様である。
後は現状を受け入れるかどうかである。
「わたしは……」
加奈子がぽつりと言い出した。
「わたしは、美奈を受け入れます」
加奈子にとっては、かつての自分自身である。
その中身がどうであるかに関わらず、追い出すことはできないだろう。
しかも静香という、これまでいろいろと世話を焼いてくれた恩人でもある。
これからは自分が世話をする番なのではないだろうか。
いや、世話をするしないという問題ではなくて、共に生活をしていく家族の一員として
温かく迎えてあげたいという気持ちになっていた。
「いいのか?」
俊介が確認をしてくるが、
「はい。これから仲良くしていこうと思います」
はっきりと肯定する加奈子であった。
「そうか……。おまえがそう言うなら」
「ありがとう、パパ! ママ!」
美奈が抱きついてきた。
しっかりと抱きとめる加奈子であったが、さすがに俊介の方は当惑気味であったようだ。
こうして円満解決することとなった家庭問題だった。
かつての美奈は俊介の妻として夫婦となり、静香は美奈として二人の娘となった。
それから数ヵ月後。
「それじゃあ、行ってきます。ママ」
女子中学生の制服を着込んだ美奈が玄関から出てくる。
「車に気をつけるのよ」
エプロンを着け、美奈を送り出す加奈子。
「はーい!」
ごく普通に見られる朝のひととき。
ごくありふれた日常。
それぞれの幸せに生きている家族の生活があった。
美奈の生活 for adult 了
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