美奈の生活 for adlut episode-1
「現実的に考え直してみようじゃないか」
「考え直す?」
「脳移植によって、美奈は加奈子に生まれ変わった。これは不可逆的な事実で、生涯加奈
子として生きるしかない」
俊介は単刀直入に尋ねた。
「なあ……。パパの奥さんになるのはいやか? 共に白髪の生えるまで、一緒に暮らして
いかないか?」
加奈子と生涯に渡って夫婦として暮らしていくこと。
それは本心から出た言葉であった。
美奈は正真正銘の自分の子供である。
美奈を性同一性障害者にしてしまった根本の要因は、母親である加奈子の一途な思いか
らであった。
父親として異をとなえていたのであるが、押し切られてしまったのである。
だからせめて、不幸な思いはさせたくないと常日頃から思い、それなりの事をやってき
たつもりである。
確かに性欲処理のこともあるのは事実であるが、幸せにしてやりたいという思いは今も
変わらない。
だからこそ、妻として生まれ変わった美奈、加奈子に対して生涯に渡って愛していくつ
もりである。
「いやじゃないけど……。昨晩のようなことはやめて欲しいよ」
「判っているよ。これからはやさしくしてあげるよ。約束する」
「約束だからね。夫婦として一生の契りだよ」
「ああ、嘘は言わない」
「じゃあ、教会の結婚式の時みたいに誓いの言葉を言ってくれる?」
「判った。わたし神林俊介は生涯に渡って、この加奈子を妻として愛し合うことを誓いま
す」
そう言って胸元で十字を切った。
「いいわ。奥さんになってあげるわ」
実際問題として、俊介の妻として生きていくしかないことは判りきっていた。
あえてここで契りを結ぶことは、一種通行儀礼みたいなものである。
「ありがとう加奈子。これでわたし達は正真正銘の夫婦だ」
「うん……。でも、それにしても……」
と、くすくすと笑う加奈子であった。
「何がおかしいんだ?」
「だって、わたしたち裸だよ。それで誓いの言葉だもん。やっぱりおかしいよ」
「それもそうだが、裸だからこそ、着飾らない本音の気持ちになれるということさ」
「わかった」
と、にっこりと微笑む加奈子であった。
「それじゃあ、もう遅いから寝るとしよう」
「二人仲良く並んでね」
「そういうことだ」
加奈子は脱ぎ捨てていたネグリジェをもう一度着込むとベッドに潜り込んだ。
そしてサイドテーブルに手を伸ばして目覚ましをセットした。
「何をしているのだ?」
「決まっているじゃない。奥さんになったんだから、会社に出かける旦那さまのために早
く起きて朝食を作らないといけないでしょ」
「作れるのか?」
「当たり前よ。そこのところはママにちゃんと手ほどきを受けているから大丈夫よ」
「そ、そうだったな。よろしく頼む」
「まかして頂戴」
「それじゃあ、おやすみなさい。あなた」
「ああ、おやすみ」
サイドテーブルの照明が消された。
もはや再戦するほどの性欲は、俊介には残っていなかった。
二人とも、ほどよい疲れを覚えており、すぐに寝入ってしまった。
つづく
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