難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

副腎白質ジストロフィー/認定基準(公費負担)

特定疾患情報診断・治療指針

45.副腎白質ジストロフィー

1 主要症状及び臨床所見
 各病型(表)で高頻度に認められる所見は以下のとおりである。
 @ 精神症状
 小児では注意欠陥多動障害,心身症と類似した症状を呈する。成人では,社会性の欠如,性格変化,精神病に類似した症状を呈する。
 A 知能障害
 小児では学習障害,視力・聴力・認知・書字・発語などの異常が現れる。成人では,認知症,高次機能障害(失語,失行,失認)などを呈する。
 B 視力低下
 初発症状として多い。視野の狭窄,斜視,皮質性の盲など。
 C 歩行障害
 痙性対麻痺(痙性対麻痺を呈することが多いが,ときに左右差を認めることもある)による歩行障害。
 D 錐体路徴候
 四肢の痙性,腱反射の亢進,病的反射陽性。どの病型においても高頻度に認められる。
 E 感覚障害
 表在及び深部知覚障害。AMN では,脊髄性の感覚障害を示す例が多い。
 F 自律神経障害
 排尿障害,陰萎など。
 G 副腎不全症状
 無気力,食欲不振,体重減少,色素沈着(皮膚,歯肉),低血圧など。

2 参考となる検査所見
(1) 極長鎖脂肪酸分析
 C26:0,C25:0,C24:0 などの極長鎖脂肪酸の増加を認める。血清スフィンゴミエリン,血漿総脂質,赤血球膜脂質などを用いて分析する。極長鎖脂肪酸の蓄積の程度と臨床病型の間には相関性はない。女性保因者の約80%で極長鎖脂肪酸の増加を認める。
参考値(血清スフィンゴミエリンC26:0/C22:0)
小児型ALD 0.0260 ± 0.0084 (n=47)
正常コントロール 0.0056 ± 0.0013 (n=710)
(2) 画像診断(頭部MRI,頭部CT)
 小児型,思春期型,成人大脳型では,大脳白質の脱髄部位に一致して,CT では低吸 収域,MRI T2 強調画像では高信号域を認める。病変の分布は後頭葉白質,頭頂葉白質 の側脳室周辺部,脳梁膨大部が多いが,稀に前頭葉白質から脱髄が始まる例もある。 AMN 及び小脳・脳幹型では錐体路,小脳,脊髄小脳路の脱髄を主体とする。活動性の 脱髄病変のある部位では,ガドリニウムにより造影効果を認める。
(3) 神経生理学的検査
 聴性脳幹誘発電位(ABR)では,T−V波間潜時が延長することが多い。体性感覚誘 発電位(SEP)及び視覚誘発電位(VEP)も異常を認めることが多い。末梢神経伝導速 度も軽度低下を認めることがある。
(4) 副腎機能検査
 臨床的に無症状でも,ACTH 高値やrapid ACTH 試験で低反応を認めることがある。
(5) 遺伝子解析
 ALD 遺伝子の変異は多彩で,病型と遺伝子変異には明らかな相関は認められていな い。同一の変異を有していても異なる臨床病型を示すことはよく経験される。
(6) 病理所見
 病理変化は中枢神経系と副腎であるので,生前の診断には役立たない。大脳白質の 脱髄,グリオーシス,血管周囲の炎症細胞浸潤が強いことも本疾患の特徴。 副腎では皮質細胞の膨化,進行期には著明な萎縮を認める。大脳白質マクロファー ジ,副腎皮質細胞,末梢神経シュワン細胞に松の葉様の層状構造物を認める。この構 造物は極長鎖脂肪酸を有するコレステロールエステルを含むものと推定されている。

3 鑑別診断

(1) 小児
 注意欠陥多動障害,学習障害,心身症,視力障害,難聴,脳腫瘍,亜急性硬化性全脳炎(SSPE),他の白質ジストロフィー
(2) 成人
 家族性痙性対麻痺,多発性硬化症,精神病,脊髄小脳変性症,Addison 病,脳腫瘍,悪性リンパ腫,他の白質ジストロフィー

4 診断基準
(1) 主要症状及び臨床所見で述べた項目(@〜G)のうち少なくとも1つ以上ある。
(2) 血漿,血清,赤血球膜のいずれかで極長鎖脂肪酸値が高値。
(3) 頭部MRI,神経生理学的検査,副腎機能検査のいずれかで異常を認める。
 確診例としては,下記@〜Bのいずれかに該当する症例とする。
@ 上記,診断基準(1)〜(3)の項目すべてを満たすもの(発症者)。
A 家族内に発症者又は保因者がおり,診断基準(2)を満たす男児(発症前男児)。
B 診断基準(1)と(3)を満たす女性で,家族内に発症者又は保因者がいる,あるいは極長鎖脂肪酸高値である場合(女性保因者)。
C ALD 遺伝子変異の有無は診断の参考になる。

5 特定疾患治療研究事業の対象範囲
 4 の診断基準における確診例とする。

表:副腎白質ジストロフィーの病型
 @ 小児型ALD
 発症年齢は,3〜10 歳。性格・行動変化,視力・聴力低下,知能障害,歩行障害などで発症し,数年で植物状態に至ることが多い。最も多い臨床病型。
 A 思春期ALD
 発症年齢は,11〜21 歳。臨床症状,臨床経過は小児型とほぼ同様。
 B Adrenomyeloneuropathy(AMN)
 10 代後半〜成人で,痙性対麻痺で発症し緩徐に進行する。軽度の感覚障害を伴うことが多い。軽度の末梢神経障害,膀胱直腸障害,陰萎を伴うこともある。小児型に次いで多い。
 C 成人大脳型ALD
 性格変化,認知症,精神症状で発症し,小児型と同様に急速に進行して植物状態に至る。精神病,脳腫瘍,他の白質ジストロフィー,多発性硬化症などの脱髄疾患との鑑別が必要。AMN の臨床型で発症し,経過中に増悪して成人大脳型となる場合もある。
 D 小脳・脳幹型
 小脳失調,下肢の痙性などを示し脊髄小脳変性症様の臨床症状を呈する。
 E Addison 病
 無気力,食欲不振,体重減少,皮膚の色素沈着など副腎不全症状のみを呈する。神経症状は示さない。
 F 女性発症者
 女性保因者の一部はAMN に似た臨床症状を呈する場合がある。
 G  その他
発症前男児。


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