■概念・定義
神経線維腫症U型(NF2, neurofibromatosis type 2)は、両側性に発生する聴神経鞘腫(前庭神経鞘腫)を主徴とし、その他の神経系腫瘍(脳および脊髄神経鞘腫、髄膜腫、脊髄上衣腫)や皮膚病変(皮下や皮内の神経鞘腫、カフェ・オ・レ斑)、眼病変(若年性白内障)を呈する常染色体優性の遺伝性疾患である。
■疫学
発生率は出生35,000〜40,000人に1人で、人種差はない。遺伝率100%に近い優性遺伝性疾患であるが、約半数には家族歴がなくmerlin遺伝子に体発生時に新たに突然変異が生じた孤発例と考えられる。
■病因
神経線維腫症U型の責任遺伝子は第22染色体長腕22q12に存在し、この遺伝子が作り出す蛋白質はmerlin(またはschwannomin)と名付けられている。merlinは595アミノ酸から成り、ezrin, radixin, moesin(ERM proteins)などのprotein 4.1 superfamilyに属している。ERM proteinsは細胞骨格actin filamentと細胞膜のcross-linkerとして働いているが、merlinは腫瘍抑制因子として別の働きをしていると考えられている。神経線維腫症II型では、merlinの遺伝子に異常が生じ、正常なmerlinができないために発症する。同様に、神経線維腫症II型以外の一般の神経鞘腫・髄膜腫・脊髄上衣腫などでもmerlinの遺伝子に異常が見つかっている。
■症状
発症年齢は10歳以下から40歳以上と様々であるが、10〜20歳代の発症が多い。臨床病態には2つのtypeがある。重症のWishart typeでは、若年で発症し、両側聴神経鞘腫以外にも多数の神経系腫瘍が生じ、腫瘍の成長も比較的速い。軽症のGardner typeでは、25歳以降の後年に発症し、両側聴神経鞘腫以外の腫瘍は少なく、腫瘍の成長も遅い。この病態の違いはmerlin遺伝子の異常の程度の違いによると言われている。
神経線維腫症U型では各種の中枢神経腫瘍が生じるが、最も多い腫瘍は神経鞘腫である。聴神経鞘腫はほぼ全例に、脊髄神経鞘腫も多くに見られ、三叉神経鞘腫もしばしば伴う。また、髄膜腫は約半数に合併し、頭蓋内や脊椎管内に多発することも多い。他に脊髄上衣腫も伴うことがある。
従って、最も多い症状は聴神経鞘腫による症状で、これには、難聴・めまい・ふらつき・耳鳴などがある。次いで多いのは脊髄神経鞘腫の症状で、手足のしびれ・知覚低下・脱力などが出現する。また、三叉神経鞘腫の症状として顔面のしびれや知覚低下も見られる。その他、痙攣や半身麻痺、頭痛を伴うことや、若年性白内障のため視力障害を伴うこともある。末梢神経の神経鞘腫のために、四肢の神経麻痺や変形をおこすこともある。皮膚病変(皮下および皮内の神経鞘腫、カフェ・オ・レ斑)を伴うが、数はNFIよりも明らかに少ない。
■診断
MRIあるいはCTで両側聴神経腫瘍が見つかれば神経線維腫症U型と診断する。また、親・子供・兄弟姉妹のいずれかが神経線維腫症II型で、本人に (1) 片側性の聴神経腫瘍、または (2) 神経鞘腫・髄膜腫・神経膠腫・若年性白内障のうちいずれか2種類が存在する場合にも診断が確定する。
また、家族歴がなくても、(1) 片側性聴神経腫瘍、(2) 多発性髄膜腫、(3) 神経鞘腫・神経膠腫・若年性白内障のうちいずれか一つ、のうち2つが見られる場合には神経線維腫症II型の可能性がある。
■治療
治療には手術による腫瘍の摘出が行われる。神経線維腫症U型に伴う腫瘍は大部分良性腫瘍で、成長が比較的速いこともあるが、殆ど成長しない腫瘍もある。一般的には、MRIあるいはCTで腫瘍の成長が明らかな時、または腫瘍による症状が出現した時には摘出術を行う。薬物療法、遺伝子治療は未だ困難である。
聴神経鞘腫については左右の腫瘍サイズと残存聴力に応じて種々の病状が想定され、各病態に応じた治療方針が要求される。一般に、腫瘍が小さい内に手術すれば術後顔面神経麻痺の可能性は低く、聴力が温存できる可能性もあるが、大きな腫瘍の手術では聴力温存は困難で、術後顔面神経麻痺やその他の神経障害を合併することもある。外科手術の他に、ガンマーナイフなどの放射線手術も小さな腫瘍には有効である。
○ 治療原則:
小さな腫瘍は経過観察も可能であるが、大きな腫瘍や経過観察中に増大を示す腫瘍には治療を行う。特に聴力損失を伴うなら積極的に治療する。手術による全摘出が望ましいが、小さな腫瘍には放射線手術も有効である。
○ 一側目の治療方針:
経過観察中に増大を示すまたは聴力損失を伴うなら積極的に治療する。早期治療が望ましい。手術による全摘出が望ましいが、小さな腫瘍には放射線手術も有効である。
○ 二側目の治療方針:
一側目の治療後に有効聴力が温存されれば、二側目にも手術または放射線手術を行う。一般に一側目は治療後に聴力損失となるため、二側目の治療は有効聴力がなくなってから行う。ただし、この間に二側目の腫瘍が増大して脳幹症状や小脳症状を呈するなら、聴力を犠牲にしても治療が必要となる。
■予後
腫瘍があっても何年も無症状で経過することや、急速に難聴などの神経症状が進行することもある。両側聴神経鞘腫を放置した場合や、まれに神経鞘腫が悪性化した場合には生命の危険が高い。過去の調査では、5年・10年・20年生存率は各々85%・67%・38%であった。
神経皮膚症候群に関する調査研究班から
研究成果(pdf 23KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。
メニューへ