■定義
ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS)は家族性プリオン病で(38 クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の項参照)、進行性小脳失調症、痙性対麻痺、認知症症状等を主症状とし、数年後に無動・無言状態となる。神経病理学的には大脳あるいは小脳にアミロイド斑を多数認め、異常プリオン蛋白から構成されている。プリオン蛋白遺伝子の変異を必ず伴っている。
■疫学
年間のクロイツフェルト・ヤコブ病を中心としたプリオン病は、100万人に1人の割で発症する。
遺伝性プリオン病は約13%で、その中では家族性CJDが最も多く、GSSはそれに次ぐ。男女間に差はない。発症年齢は 40〜50歳代が多く、若年発症(20〜30歳代)もみられる。
■病因
プリオン蛋白遺伝子の特定の部位の変異がGSS発症と深くかかわっている。現在のところGSSの全例でプリオン蛋白遺伝子の変異が明らかになっている。変異の浸透率も高く、90%以上と報告されている。病理像の特徴は、 全症例にプリオン蛋白からなるアミロイド斑が認められることで、海綿状態やグリオーシスは症例により違いがある。マウスを用いた実験的伝達率は低い。
■症状
表1にまとめたようにプリオン蛋白遺伝子の各変異ごとに臨床症状が異なっている。日本で見られるGSSで、最も多いのは進行性の小脳症状を主徴とする病型で、コドン102の変異を示す。小脳症状として失調性歩行、四肢の失調、構音障害、眼振などで 初発し、徐々に進行する認知症が現われ、5〜10年後には寝たきりとなる。次に多いのは痙性麻痺型であり、コドン105の変異がみられる。下肢の深部腱反射亢進、病的反射、痙性歩行などで始まり、徐々に認知症症状が加わってくることが多い。また、症例によっては不随意運動や錐体外路症状、失調症状を呈する症例もある。その他、稀ではあるがコドン145の変異や、8ペプチドの過剰反復症例で緩徐進行性の認知症症状を主症状とし、プリオン蛋白の塊状沈着をきたす症例がある。これらの症例の鑑別診断は困難であり、プリオン蛋白遺伝子の異常を調べる必要がある。
表1 日本人GSSにみられるプリオン蛋白遺伝子変異と臨床所見
(*変異アレル上の多型)
変異部位 | アミノ酸置換 | 初発症状 |
codon102 | プロリン→ロイシン | 小脳失調症 |
codon102/219(Lys)* | プロリン→ロイシン | 認知症症状又は小脳失調症 |
codon105/129(Val)* | プロリン→ロイシン | 痙性四肢麻痺 |
codon117/129 (Val) | アラニン→バリン | 認知症症状、仮性球麻痺、錐体路・錐体外路症状 |
codon145 | チロシン→stop | 緩徐進行の認知症症状 |
codon198/129 (Val) | フェニルアラニン→セリン | 認知症症状と小脳失調、パーキンソニズム |
codon217/129 (Val) | グルタミン→アルギニン | 緩徐進行の認知症症状と小脳失調 |