1)体液性免疫不全を主とする疾患(頻度43.7%)
2)細胞性免疫不全を主とする疾患(頻度、全登録例の10.3%)
3)進行性の免疫不全を伴う特異な症候群(頻度、17.8%)
4)発症に免疫不全が関与する疾患群(頻度、6.5%)
5)原発性食細胞機能不全症(頻度、17.6%)
6)先天性補体欠損症(頻度、2.4%)
1)体液性免疫不全を主とする疾患(頻度43.7%)
■概念
血清IgG<250 mg/dl、IgA<5 mg/dl、 IgM<20mg/dlの条件を充たすものを無または低ガンマグロブリン血症とする。X連鎖(ブルトン型)無ガンマグロブリン血症 (XLA)、分類不能型低ガンマグロブリン血症 (common variable immunodeficiency,CVID) とIgM増加を伴う免疫不全症 (高IgM血症候群) が代表的疾患で、選択的IgA欠損症、IgGサブクラス欠損症などが知られている。
■疫学
厚生労働省原発性免疫不全症候群調査研究班・登録資料では、全登録症例の約半数を占め、頻度はCVID (13.5%)、XLA (10.7%)、選択的IgA欠損症 (8.7%)、IgM増加を伴う免疫不全症 (3.8%) の順である。
■病因
XLAはX染色体上のBTK (Bruton’s tyrosine kinase) 遺伝子異常によっておこり、プロB細胞からプレB細胞への分化が障害され、末梢血B細胞が欠損する。高IgM症候群は、免疫グロブリンのクラススイッチ機構に欠陥があり、IgMを産生できるが、IgG、IgA、IgEを産生できない疾患群である。X連鎖型のものは活性化T細胞上のCD40リガンドの遺伝子異常により、常染色体劣性の一部はAID (activation-induced cytidine deaminase) やUNG(uracil DNA glycosylase)の異常による。CVIDは一般には原因が特定できない低ガンマグロブリン血症の総称であるが、最近、ICOS、TACI、BAFF-R、CD19遺伝子異常がみつかっている。
■症状
Bリンパ球の欠損によるXLAでは、通常母体由来の移行抗体が消失する乳児期後半からインフルエンザ菌、肺炎球菌、連鎖球菌などの化膿菌による中耳炎、肺炎、髄膜炎、膿皮症などを反復、遂には気管支拡張症をきたす。エンテロウイルス持続感染を例外とし、ウイルス感染症の多くは正常に経過し、カリニ肺炎も稀である。X連鎖高IgM症候群やCVIDでは、さまざまな化膿菌の感染に加え、カリニ肺炎などの日和見感染や自己免疫様疾患、悪性腫瘍の合併頻度が高い。
■治療
無または低ガンマグロブリン血症を呈するばあいは、静脈注射用人免疫グロブリン(IVIG)製剤による補充療法が不可欠である。気管支拡張症などの肺合併症の進行を防ぐには、適正な抗菌薬治療に加え、血清のIgGトラフ値500 mg/dl程度に維持することが望ましく、3〜4週毎に200〜600 mg/kg (平均400 mg/kg) を投与する。IgGサブクラス欠損症などの一部では易感染性を伴う例があり、免疫グロブリン補充療法が必要となることがある。
■予後
IVIG製剤による免疫グロブリン大量投与が可能になり、予後は著しく改善された。XLAでは成人に達する例も次第に増加しているが、X連鎖高IgM症候群やCVIDにみられる日和見感染、自己免疫様疾患や悪性腫瘍の高頻度の合併など問題も多い。
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2)細胞性免疫不全を主とする疾患(頻度、全登録例の10.3%)
■概念
細胞性免疫不全症ではウイルス感染の遷延と重症化、真菌、ニューモシスチス・カリニや結核菌、非定型抗酸菌など細菌内寄生菌の感染の頻度が高く、治療に抵抗する。
Bリンパ球の免疫グロブリン産生にはTリンパ球の補助が必須なため、Tリンパ球に異常があると体液性免疫にも何らかの異常を伴う(複合免疫不全症)。Tリンパ球の数や機能の著しい異常に加え、無または低ガンマグロブリン血症を伴うものを重症複合免疫不全症 (SCID) という。
■疫学
登録では、複合免疫不全症は原発性免疫不全症の約10%を占め、その殆どがSCIDである。Omenn病、HLAクラスU欠損症、網内異形成症などのSCID類縁疾患のほか、発症がやや遅く、軽症の経過をとる、様々なTリンパ球の遺伝的異常症が報告されている。
■病因
SCID はTリンパ球の発生障害によるTリンパ球数の減少と抗体産生不全を特徴とし、約半数はX連鎖であり、その原因はIL-2、-4、-7、-9、-15のレセプターに共通するγc鎖の遺伝子異常による。常染色体劣性のものとしてγc鎖からのシグナルを下流に伝えるチロシンキナーゼであるJAK3ならびにIL-7レセプターα鎖の遺伝子異常によるものがある。抗原受容体の遺伝子再構成に関わる分子であるRAG1/RAG2およびArtemisの遺伝子異常によるSCIDも存在する。RAG1/RAG2のミスセンスではOmenn症候群と呼ばれる特殊な病型をとる。アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症もSCIDの一因である。
■症状
SCIDでは、生後3カ月までに咽頭後壁にまで広がる鵞口瘡、外陰部のカンジタ症、カリニ肺炎による百日咳様咳嗽、遷延性下痢で発症、著しい発育障害をきたす。しばしば皮疹や好酸球増多を伴う。
さまざまな治療にもかかわらず、症状は進行性に悪化する。麻疹や麻疹生ワクチン接種は巨細胞性肺炎を起こし、水痘は致死的経過をとる。
末梢血リンパ球は<2,000/ul、Tリンパ球を欠き、レクチン刺激に反応せず、無または低ガンマグロブリン血症を呈する。 SCIDの患児の約15%はADA欠損症である。
■予後
SCIDとその類縁疾患は、骨髄や臍帯血による造血幹細胞移植を行わないと1〜2歳までに死亡する。造血幹細胞移植の成否を分ける感染予防には、ST合剤の予防投与、IVIG製剤による免疫グロブリン補充療法を行う。ADA欠損症では酵素療法、遺伝子治療が試みられている。
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3)進行性の免疫不全を伴う特異な症候群(頻度、17.8%)
Wiskott-Aldrich症候群(WAS)、毛細血管拡張性失調症(ataxia telangiectasia、AT)は特徴的な臨床像とともに、主としてTリンパ球機能の進行低下を特徴とする疾患であり、様々な免疫グロブリン異常を伴い、この点では複合免疫不全症に属する疾患である。WAS、ATの原因遺伝子はすでに同定されている。WAS、ATでは、悪性腫瘍の合併の多いことが知られている。WASでは造血幹細胞移植による治癒例が多いが、神経症状を伴うATは対症的治療に止まる。
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4)発症に免疫不全が関与する疾患群(頻度、6.5%)
高IgE症候群 (4.0%) と慢性粘膜皮膚カンジタ症 (1.3%) が多い。最近、高IgE症候群のうち常染色体劣性のものは、TYK2遺伝子異常、常染色体優性のものはSTAT3遺伝子異常によることが日本の研究者の手で判明した。
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5)原発性食細胞機能不全症(頻度、17.6%)
■概念
好中球を中心とする食細胞の機能に先天的な欠陥があると、生後間もなくから重篤な細菌感染を繰り返し、創傷治癒も遷延する。慢性肉芽腫症 (CGD)、白血球粘着異常症 (LAD)、Chediak-Higashi症候群(CHS)などが知られている。
■疫学
登録事業ではCGDは原発性免疫不全症の14%を占めるが、LAD、CHSは極めて稀である。
■病因
活性酵素の産生能に欠陥のあるCGDは4亜型に分類され、X連鎖遺伝型(gp91 phox欠損症)が最も多い。
また、欧米に比較的多いp47phox欠損症はわが国では極めて少ない。
好中球の血管外遊走能に障害のあるLADはT型(CD18分子の変異)、U型(sialylLewisx分子の異常)に分類される。
好中球、NK細胞の形態・機能に欠陥のある、Chediak-Higashi症候群の原因遺伝子はLYSTである。
■症状
CGDでは乳児期早期に肛門周囲膿瘍、化膿性リンパ節炎などのため切開、排膿を余儀なくされる。肺、肝臓、脾臓など網内系を中心に膿瘍を反復、肉芽腫様病変をきたす。カンジダやアスペルギルスなどの真菌感染が重症化しやすい。細胞内寄生菌に対する易感染性もあり、BCG菌によるリンパ節炎を発症するため、BCG接種は禁忌である。LADでは臍帯脱落の遅れが特徴的で、高度の歯周囲炎を伴う。様々な化膿菌の感染が多いが、局所病変は壊死が主で膿形成に乏しい。感染が明らかでない時でも、末梢血白血球が30,000/ulにも及ぶ増加がある。部分白子症で淡い頭髪をもつCHSでは、好中球、NK細胞における巨大顆粒が特徴であり、診断の決め手となる。
■治療
造血幹細胞移植による治癒可能な疾患で、ST合剤などによる感染の予防が重要である。CGDでは、ガンマ・インターフェロンの臨床的有効性が確立されている。
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6)先天性補体欠損症(頻度、2.4%)
補体蛋白の欠損と補体制御蛋白の欠損がある。補体制御蛋白Properdin欠損症(X連鎖遺伝)以外は常染色体性に遺伝する。
補体成分の選択的欠損症では、CH50補体価は著減、補体蛋白も検出されない。
髄膜炎菌に加え、肺炎球菌、インフルエンザ菌などの感染を繰り返すことが多く、特異抗体を欠く乳幼児では重症になり易い。感染に際しては病原体に有効な抗菌薬治療を行う。
欠損補体の補充療法は期待できず、肺炎球菌ワクチン、インフルエンザ菌ワクチンの接種が勧められている。
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原発性免疫不全症候群に関する調査研究班から
原発性免疫不全症候群 研究成果(pdf 36KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。
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