■定義
有棘赤血球を伴う舞踏病には数疾患が含まれている。大別すると脂質の吸収低下から生じる無あるいは低βリポタンパク質血症を伴う群と伴わない群とに分けられる。ここでいう有棘赤血球を伴う舞踏病は後者に分類される。代表はLevin-Critchley症候群とMcLeod症候群である。その他、ハンチントン病類症型Huntington disease-like2やPKAN:Pahtothenate kinase associated neurodegeneration (Hallervorden Spatz syndrome)などもこの群に含まれる。いずれも末梢血に有棘赤血球acanthocyteを認め、神経学的には舞踏運動を中心とする不随意運動を認める。代表2疾患の特徴を下記に示す。
1) Levin-Critchley 症候群いわゆるchorea acanthocytosis:
(1) 20歳以降に発症し、緩徐に増悪する、常染色体劣性遺伝、あるいは常染色体優性遺伝であるが、浸透率が高くないため、孤発性に見えるときもある。
(2) 口周囲(口、舌、顔面、頬部など)の不随意運動で発症することが多く、自傷行為をともない、唇、舌に咬傷を見ることが多い。咬唇や咬舌は初期には目立たないこともある。口舌不随意運動により、構音障害、嚥下障害を呈する、体肢にみられる不随意運動は舞踏運動とジストニアを主体とする。
(3) 軽度の認知障害、精神症状(人格変化、強迫行動障害などが多い)、時にてんかん発作を伴う。
(4) 軸索障害を主体とする末梢神経障害を認め、下肢遠位有意の筋萎縮、脱力、深部反射低下〜消失をみる。
(5) 血清CK値の上昇を認めることが多い。
(6) 頭部MRIやCT像で尾状核の萎縮、大脳皮質の軽度の萎縮を認める。
(7) CHAK遺伝子(VPS13A)が病因遺伝子で、遺伝子変異を認める。遺伝子産物はchoreinと呼ばれ、全身に発現している。Choreinの機能は未知である。
2)Mcleod症候群:
(1) 伴性劣性遺伝様式をとる。
(2) 50歳ごろ発症することが多い。
(3) 舞踏運動を主とする不随意運動を口周囲、四肢体幹に認め、他にチック、ジストニア、パーキンソニズムを見ることもある。
(4) 軸策型末梢神経障害を大多数の症例で認める。
(5) 筋障害(四肢筋と心筋)を認める。心筋症や溶血性貧血を認めることもある。
(6) 進行期には皮質下認知障害や行動障害を半数の症例で認める。
(7) 血清CK値の上昇を認める。
(8) 針筋電図所見では筋原性、神経原性所見の双方を認める。
(9) 頭部MRIやCT像で尾状核の萎縮、大脳皮質の軽度の萎縮を認める。
(10) 赤血球表面にあるKxタンパクの欠損とKell抗原の発現が著減している(Mcleod現象)。
(11) XK遺伝子異常がある
■疫学
わが国での疫学調査では全国で約100人程度の患者が見出されているが、詳細は不明である。
■病因
上記定義にそれぞれ記載した。遺伝子変異の同定により確定診断となる。
■症状
定義にそれぞれ記載した。
■診断
血液像で有棘赤血球症をみとめ、遺伝子変異を同定することにより確定診断する。画像所見ではMRIなどで尾状核の萎縮、側脳室の拡大が見られる。有棘赤血球の赤血球に占める割合と病像との関連はない。
除外診断、鑑別診断は下記のとおりである。
1) 脳血管障害(多発性脳梗塞、脳出血、硬膜下血腫、もやもや病、脳動静脈奇形など)に伴う舞踏運動
2) 薬物性舞踏運動(抗精神病薬、抗てんかん薬、抗パーキンソン病薬など)
3) 脳腫瘍に伴う舞踏運動
4) 傍腫瘍性症候群
5) 神経変性疾患に伴う舞踏運動
(1) DRPLA
(2) SCA17
(3) その他
6) 不随意運動を主症状とする代謝性疾患
(1) Lesch-Nyhan症候群
(2) ライソゾーム病
(3) ポルフィリア
(4) その他
7) 顔面・舌ジスキネジア
8) 全身性エリテマトーデス
9) 妊娠性舞踏病
10) 電解質異常にともなう舞踏病
11) 多血症
12) 中毒性疾患(一酸化炭素中毒、有機水銀中毒、無酸素脳症、タリウム中毒、有機溶剤中毒など)
■治療
遺伝子機能はまだ不明な点が多く、原因療法は開発されていない。対症療法として舞踏運動に対しては定型抗精神病薬が使用されることがあるが、有効性には症例により差異がある。
■予後
進行性疾患で予後不良である。残念ながら本症の自然歴には不明な点が多い。
情報提供者
研究班名 神経・筋疾患調査研究班(神経変性疾患)
情報提供日 平成21年4月1日
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