■概要・定義
成長ホルモン(GH)の過剰により特有の顔貌および代謝異常を来たす疾患である。骨端軟骨線が閉鎖する以前に発症した場合、身長の著明な増加をきたし下垂体性巨人症と診断される。骨端軟骨線が閉鎖した場合、先端巨大症となる。
先端巨大症の原因のほとんどは成長ホルモン(GH)産生下垂体腺腫である。GH過剰 により、特有の顔貌、四肢末端の肥大、骨変形、糖代謝異常、発汗過多、頭痛などの 症状を示す。合併症として、インスリン抵抗性を伴う耐糖能異常、糖尿病、高血圧、 高脂血症などの代謝異常、甲状腺腫や大腸ポリープ、悪性腫瘍(特に大腸がん)を伴 いやすい。GH分泌過剰の診断には糖負荷に対するGH分泌抑制の欠如、IGF-1の高値が 必要である。
■疫学
大きな男女差はなく、好発年齢は40〜50歳台である。
1993年に5年間の実数調査が行われ、815例(男/女=392/432)の先端巨大症と29例 (男/女=21/7)の下垂体性巨人症が報告された。日本における年間発生率は100万人 当たり3-4例と推定されているが、正確な有病率は不明であった。
片上らの宮崎県における調査では、先端巨大症の有病率は100万人あたり84.6例、 年間発生率は100万人あたり5.4例と推定している.最近欧州で報告された有病率、発 生率とよく一致しているが、いずれも臨床的に明らかな先端巨大症を対象とした調査 研究である。
■病因
先端巨大症の99%以上はGH産生下垂体腺腫によって引き起こされる。半数近くでGsα 蛋白遺伝子の体細胞変異がみつかっている。ごくまれに気管支や膵臓のカルチノイドによる異所性GHRH産生腫瘍に伴う下垂体過形成によるものがある。膵癌および悪性リンパ腫で異所性GH産生の報告例がある。
■症状と病期
GH過剰による全身症状と下垂体腺腫としての局所症状に分けられる。
顔貌変化(97%)、手足の容積増大(97%)、巨大舌(75%)、発汗増多(70%)、女 性において月経異常(43%)が頻度高く認められる。このほか、頭痛、高血圧、手足 のしびれ、心肥大、性欲低下、視力障害が認められる。
■臨床
診断には、発汗過多,軽い顔貌の変化や先端部の肥大などに注意する。顔貌変化の自覚は少ないため以前の写真と見比べる。靴や指輪のサイズの変化、 歯間解離、噛合障害、がんこな頭痛、視力障害、いびき、鼻声、睡眠時無呼吸症候群などにも注意する。高血圧やインスリン抵抗性の糖尿病が発見契機となることがある。
一般検査成績では、血清無機リン濃度上昇、尿糖陽性(33%)、空腹時血糖高値 (39%)、ブドウ糖負荷試験で境界型または糖尿病型の耐糖能異常(74%)を認める。
内分泌検査では、GHとともにインスリン様成長因子-1(IGF-1)を測定する。GHは 脈動的分泌のため、健常人でも10ng/ml以上になることがある。IGF-1は健常者の年 齢、性別基準値と照らし合わせて判定する。栄養障害、肝疾患、腎疾患、甲状腺機能低下症、コントロール不良の糖尿病などが合併すると、IGF-1は高値を示さないこと がある。
ブドウ糖負荷試験で、健常人ではGHは1ng/ml未満に抑制されるが、活動性先端巨大 症ではほぼ全例で抑制されない。感度が高く、疑わしい場合には必要な検査である。 MRIによる下垂体画像検査で下垂体腺腫の存在と鞍外進展の程度、特に海綿静脈洞 への浸潤を調べる。頭蓋単純X線撮影側面でトルコ鞍の拡大や手足のX線で手指末節骨の花キャベツ様肥大変形、足底軟部組織の肥厚(22mm以上)が認められる.
■治療
治療の目的は、GHの過剰分泌を是正して軟部組織の肥大など可逆的な臨床症状を軽減し合併症の進展を防ぐこと、下垂体腺腫に基づく症状を改善すること、にある。
1)手術療法
禁忌がない限り手術療法が治療の原則である。経蝶形骨洞的下垂体腺腫摘出術 (TSS)が第一選択で、熟練した脳神経外科専門医に依頼する。手術の成功率は下垂体腺腫の大きさと海綿静脈洞浸潤の程度による。腺腫が小さい間に早期診断して治療することが最も重要である。
2)手術療法ができない、または手術療法で完治しない場合
手術禁忌例や手術療法の効果がなかった症例には、ソマトスタチン誘導体であるオ クトレオチド、GH受容体拮抗薬ペグビソマント、ドパミン作動薬であるブロモクリプチン、カベルゴリンなどによる薬物療法をおこなう。
局所腫瘍制御のため定位的放射線照射(ガンマナイフなど)が行われ、従来の外照 射に比べ良好な治療成績が得られているが、放射線障害による下垂体機能低下症が問 題となる。
3)その他
尿崩症や下垂体前葉機能低下症を伴う場合には、それぞれに応じた薬剤による補充 を行う。
実際の治療選択には個々の症例に応じて、年齢、活動性、合併症の程度、腫瘍の大 きさと位置、治療の持続性、費用対効果、副作用などを十分に考慮する必要がある。
■ケアー
糖尿病、高血圧症、高脂血症、心疾患、変形性関節症、悪性腫瘍(特に大腸癌)のような合併症を伴うことが多いので対症的に治療する。先端巨大症の死因には心血管障害が多いため、動脈硬化性血管病変や心疾患に関する検査は定期的におこない、高血圧、糖尿病、高脂血症をコントロールする。
■予後
日本における先端巨大症の長期予後に関する横断的調査が1988年に行われた。症状が出現してから先端巨大症と診断されるまで、平均8年以上経過しており、1964年から1988年までに84例の死亡が確認され、死亡時平均年齢は59歳であった。生存曲線では、日本人健常人と比較して10年以上の生命予後の悪化がみられた。
情報提供者
研究班名 間脳下垂体機能異常障害
情報提供日 平成21年4月1日
メニューに戻る