■定義、概念
下垂体から分泌されるACTH, TSH, GH, PRL, LH, FSHの単独あるいは複合した分泌不全により発症する疾患である。原因は、下垂体障害と、下垂体ホルモン分泌を制御する視床下部の障害に大別される。両者が存在することもある。
■疫学
平成13年に行なわれた成人下垂体機能低下症全国疫学調査では1464名の受診者が確認された。この調査は全国のすべての医療機関を網羅しているわけでなく、また回答率も56%であったので、実際の受診者はさらに多いと考えられる。また、受診していない患者も多いものと考えられる。
■病因
視床下部下垂体の腫瘍(下垂体腫瘍、頭蓋咽頭種、胚芽種など)、炎症性、浸潤性疾患(肉芽種、サルコイドーシス、ランゲルハンス細胞組織球症など)外傷、自己免疫疾患(リンパ球性下垂体炎)、分娩時の大量出血(シーハン症候群)、遺伝子異常(Pit-1,Prop1などの下垂体形成に関与する転写因子異常)による。病因の明確でないものもある。
■症状
不足する下垂体ホルモンの種類、不足量により異なる。ACTH分泌不全がある場合、続発性副腎不全をきたし、その結果、倦怠感、低血圧、低血糖、食欲不振、意識障害などが出現する。TSH分泌不全がある場合、続発性甲状腺機能低下症となり、倦怠感、寒がり、皮膚の乾燥、脱毛、集中力・記憶力低下等の症状が出現する。LH、FSH分泌不全があれば、2次性徴の欠如、進行停止、脱落が生じる。女性では月経異常、不妊、男性でも性欲低下、精子形成不良、不妊の原因となる。GH分泌不全がある場合、小児では成長が遅れ低身長となる。乳幼児では低血糖を生じることがある。成人では、体脂肪の増加、筋肉量,骨塩量の低下など体組成の異常のほか、気力、活動性の低下などの症状がみられる。PRL分泌不全の場合、授乳中の女性では乳汁分泌の低下が生じる。
■治療
原因となっている脳の腫瘍、炎症、外傷がある場合には、それに対する治療が必要である。下垂体ホルモンの分泌低下が存在する場合、ホルモン補充療法を行う。下垂体ホルモンはペプチドホルモンであり、経口投与が困難であるため、ACTH、TSH分泌不全に対しては、それらの標的臓器が分泌するホルモンを補充する。ACTH分泌不全による副腎不全がある場合には、通常副腎皮質ホルモン(ヒドロコルチゾンなど、15-20mg/日、朝10-15mg、夕(昼)5mg)の補充を行う。TSH分泌不全による甲状腺機能低下症のある場合には、甲状腺ホルモンの経口投与を行う。甲状腺ホルモンの必要量は個々の症例により異なるが、少量から漸増する。また、副腎不全を併せ持つ場合には、副腎皮質ホルモンの補充を先に行なうことが重要である。LH、FSH分泌不全がある場合は、性ホルモンの欠落症状を代償するために、性ホルモンの補充が通常行われている。男性では、テストステロンデポ剤が使用される。女性では、無月経の程度により、プロゲストーゲン剤(ホルムストルーム療法)やエストロゲン剤およびプロゲストーゲン剤の併用投与を行う(カウフマン療法)。しかし、これらの性ホルモンの補充のみでは、妊孕性の獲得は望めない。男性では精子形成をすすめるためには、hCG-hMG(FSH)療法が行われる。挙児希望のある女性の場合は、排卵誘発を行う。第1度の無月経ではクロミフェン療法、第2度無月経ではhCG-hMG(FSH)療法やLHRH間欠投与法が行われる。GH分泌不全のある場合、低身長患児では最終身長を正常化することを目標にGH補充療法が行われる。成人でも、体組成異常や代謝障害の是正、QOLの改善を目的にGH補充療法が行われる。PRL分泌不全に対する補充療法は行われていない。
■予後
ホルモン補充療法が適切に行われているときには、ほとんど健常人と変わらずに生活できる。ホルモン補充が不十分であるとき、上記の症状が持続し、QOLも障害されることがある。副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモンの補充は、必要な方ほとんどすべてで行われているが、性ホルモン、ゴナドトロピンの補充は十分に行われていないことがある。さらに、GHの補充はまだ一部の例にとどまっている。
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