■概念・定義
慢性唾液腺炎と乾燥性角結膜炎を主徴とし、多彩な自己抗体の出現や高ガンマグロブリン血症をきたす自己免疫疾患の一つである。乾燥症が主症状となるが、唾液腺、涙腺だけでなく、全身の外分泌腺が系統的に障害されるため、autoimmune exocrinopathyとも称される。
シェーグレン症候群は他の膠原病の合併がみられない一次性と関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病を合併する二次性とに大別されます。さらに、一次性シェーグレン症候群は、病変が涙腺、唾液腺に限局する腺型と病変が全身諸臓器におよぶ腺外型とに分けられます。
病理学的には、唾液腺、涙腺では、導管周囲に単核球の著明な浸潤と腺房細胞の萎縮、消失、導管上皮細胞の増殖などによる内腔の狭窄がみられます。免疫組織染色による所見では浸潤単核細胞の多くはCD4+αβT細胞であり、周囲にはB細胞浸潤も認められる。様々な自己抗体の出現や臓器に浸潤した自己反応性リンパ球の存在により、自己免疫応答がその病因として考えられています。ポリクローナルな高ガンマグロブリン血症のほか、抗核抗体、リウマトイド因子、抗SS‐A抗体、抗SS‐B抗体などの自己抗体が出現します。
最近の研究により、耳下腺腫脹を特徴とするMikulicz病はIgG4関連疾患に位置づけられ本疾患とは異なる疾患であると考えられています。
■疫学
全国疫学調査の結果、我が国における1993年年間受療患者数は17,000 人であり、男女比は1:13.7であった。発症年齢は40〜60歳代である。2003年の調査では患者数は7万人であり、現時点では10万人を超えていると考えられています。
■病因
詳細は不明であるですが、自己免疫疾患と考えられています。
■症状
(1)乾燥症状
眼の異物感、羞明感、易疲労感、眼脂の増加などを訴えることが多く、眼の乾燥感を訴えることは少ない。口腔の場合には、う歯の増加、 食事の際の水分摂取増加などの訴えが多い。この他、気道乾燥による乾性咳嗽、鼻腔の乾燥感、皮膚乾燥による掻痒感、腟乾燥による性交障害などの訴えもみられる。
(2)唾液腺・涙腺腫脹
約3分の1の症例で経過中に唾液腺・涙腺の腫脹がみられる。耳下腺腫脹は両側性のことが多く、急性の場合には軽度の疼痛と腫脹を伴 う。慢性に経過する場合には無痛性のことが多い。
(3)関節症状
関節痛は移動性かつ多発性のことが多い。関節炎を起こすこともある。
(4)甲状腺
甲状腺腫をきたし、慢性甲状腺炎を呈することが多い。
(5)呼吸器症状
間質性肺炎を呈することがある。気道の乾燥による慢性気管支炎、 嗄声などがみられることもある。
(6)肝症状
原発性胆汁性肝硬変症がみられるほか、自己免疫性肝炎も合併することがある。
(7)消化管症状
胃液の分泌低下による胃炎が起こることがある。
(8)腎症状
本症では遠位尿細管性アシドーシスをきたし、低カリウム血症による四肢麻痺をみることがある。このような場合、腎石灰化症もみられることが多い。糸球体腎炎を起こすことは稀である。
(9)皮膚症状
環状紅斑は本症に特異的にみられる。高ガンマグロブリン血症によ り、下肢に網状皮斑や紫斑を呈することもある。
(10)その他
レイノー現象は高率にみられるほか、筋炎、末梢神経炎、血管炎などがみられることもある。悪性リンパ腫は唾液腺及びリンパ節に好発し、その大部分はB細胞リンパ腫である。
■治療
乾燥症状に対しては、対症的に人工涙液の点眼や人工唾液の噴霧が行われる。また頻回のうがいはう歯の予防に有用である。室内の湿度を保つことも乾燥感の軽減に有効である。乾燥症状が強い場合には、塩酸ブロムヘキシン、アネトールトリチオン、麦門冬湯、塩酸セビメリンなどが用いられる。塩酸セビメリン(エポザック、サリグレン)は今までの薬剤に比べて有用性が高く、約60%の患者で有効であるが、約30%の患者で消化器症状や発汗などの副作用が出現する。本剤は効果、副作用の出現に個人差があるので、1日1錠から始め、副作用を見ながら1錠ずつ増量するなどの慎重な服用が望まれる。また、マレイン酸トリメブチン(セレキノン)の併用は、吐き気などの副作用を予防することが報告されている。さらに、水に溶かしてうがい薬として使うリンス法も検討されている。2007年日本において塩酸ピロカルピン(サラジェン)が保険適用となりました。汗をかきやすいという副作用がありますが、塩酸セビメリンと同様に唾液分泌に有効な薬剤です。頭頚部の放射線治療に伴う口腔乾燥症状の改善に対しては、平成17年9月より保険が適用されています。最近免疫抑制薬のミゾリビン(ブレディニン)の有効性が報告されている。これまでの対症療法と異なり、疾患の進行を遅らせる可能性もあり、期待が持たれる。強度の眼乾燥症状に対しては、涙点プラグが有効である。
関節痛や関節炎には非ステロイド系消炎鎮痛剤が功を奏する。ステロイド剤の適応となるのは、反復する難治性の唾液腺腫脹、進行性の間質性肺炎、間質性腎炎、高ガンマグロブリン血症性紫斑などの病態である。発熱、多発性関節痛、リンパ節腫脹が持続する場合にも少量のステロイド剤が有効である。甲状腺機能低下の場合には甲状腺ホルモンの補充療法が行われる。尿細管性アシドーシスでは重曹の投与によるアシドーシスの是正とカリウムの補給が行われる。原発性胆汁性肝硬変症に対しては、ウルソデスオキシコール酸の投与が第1選択である。悪性リンパ腫を合併した場合には速やかに化学療法の適応となる。他膠原病を合併した場合には、その治療を優先する。
■予後
一般に慢性の経過を取るが、予後は良好である。乾燥症のために患者のQOLは必ずしも良好とはいえなかったが、新薬(塩酸サビメリン、塩酸ピロカルピンなど)の登場でQOLが改善してきています。生命予後を左右するのは、活動性の高い腺外症状や合併した他の膠原病によります。
自己免疫疾患に関する調査研究班から
シェーグレン症候群 研究成果(pdf 22KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。
情報提供者
研究班名 免疫疾患調査研究班(自己免疫疾患)
情報更新日 平成20年5月7日
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