難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

再生不良性貧血/診断・治療方針(公費負担)

特定疾患情報認定基準

■概念・定義
再生不良性貧血は、末梢血で汎血球減少症があり、骨髄が低形成を示す疾患である。診断のためには、他の疾患に随伴する汎血球減少症は除外する必要がある。特に診断がまぎらわしい疾患は骨髄異形成症候群の不応性貧血である。

大きく分けて(1)先天性の再生不良性貧血(Fanconi 貧血と呼び、種々の奇形を合併することが多い)と(2)後天性再生不良性貧血がある。後天性再生不良性貧血は一次性あるいは特発性(原因不明)と二次性(薬剤・薬物・放射線被曝などによる)に分類される。その他、特殊型として肝炎後再生不良性貧血と発作性夜間血色素尿症(PNH)を合併するPNH−再生不良性貧血症候群などがある。いずれも造血幹細胞の減少または質的異常による。

■疫学
1993年の我が国の調査では、年間の罹患患者数は約2,500人(100万人に約20人の罹患率)で、有病者数は約5,000人で、年間有病者数は7,600人であった。ただし、欧米や東アジアの疫学調査によると年間罹患患者数100万人に5〜7人程度とされていることから、この数字には骨髄異形成症候群やPNHなどの関連疾患が含まれており、日本における頻度もこの程度の可能性がある。

■病因
造血幹細胞が減少する機序として造血幹細胞自身の質的異常と、免疫学的機序による造血幹細胞の傷害の二つが重要と考えられている。造血幹細胞の質的異常は(1)再生不良性貧血と診断された患者の中に、細胞形態が正常であるにもかかわらず染色体異常が検出される例や、のちに骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome: MDS)・急性骨髄性白血病に移行する例があること、(2)Fanconi貧血やテロメラーゼ関連遺伝子の異常による骨髄不全のように、特定の遺伝子異常によって再生不良性貧血を発症するモデルが存在すること、などから推測されている。

一方、免疫学的機序による造血抑制を示唆する所見として[1]再生不良性貧血患者に一卵性双生児の健常ドナーから移植前処置無しに骨髄を移植した場合約半数にしか造血の回復が得られないが、同種骨髄移植に準じた免疫抑制療法後に再度骨髄を移植するとほとんどの例に回復がみられる、[2]抗胸腺細胞グロブリンantithymocyte globulin(ATG)やシクロスポリンなどの免疫抑制療法が再生不良性貧血患者の約7割に奏効する、[3]再生不良性貧血のかかりやすさと特定のHLA-DRアレル(DR15)との間に相関がある、などがある。これらの他に、骨髄において抗原特異的なT細胞の増殖がみられること、造血幹細胞が高発現している蛋白に特異的な自己抗体が高率に検出されること、などの免疫学的機序を示唆する新たな証拠が得られつつある。しかし、骨髄不全の原因となる自己抗原はまだ同定されていない。

■症状
(1)貧血症状
顔色不良、息切れ、動悸、めまい、易疲労感、頭痛。

(2)出血傾向
皮膚や粘膜の点状出血、鼻出血、歯肉出血、紫斑など。重症になると血尿、性器出血、脳出血、消化管出血もある。

(3)発熱
顆粒球減少に伴う感染による。

■検査成績 (1)末梢血所見
赤血球、白血球、血小板のすべてが減少する。貧血は正球性正色素性または大球性を示し、網赤血球の増加を伴わない。白血球の減少は顆粒球減少が主体である。

骨髄穿刺・生検所見
有核細胞数の減少、とくに幼若顆粒球・赤芽球・巨核球の著しい減少がみられる。赤芽球が残存している場合には軽度の異形成を認めることが多い。染色体は原則として正常であるが、病的意義の明らかでない染色体異常を少数認めることがある。骨髄生検では細胞成分の占める割合が全体の30%以下に減少している。

血液生化学検査所見
血清鉄、鉄飽和率、血中エリスロポエチン値、顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor,G-CSF)値などが増加する。

骨髄シンチグラフィおよびMRI
111Inを用いたシンチグラフィでは全身の骨髄への取込み低下がみられる。MRIのSTIR法で検索すると胸腰椎は均一な低信号となり、T1強調では高信号を示す。

免疫学的検査
感度の高いフローサイトメトリを用いて末梢血の顆粒球、赤血球を検索するとdecay accelerating factor (DAF, CD55) 、homologous restriction factor (HRF, CD59)などのグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー膜蛋白の欠失した少数のPNH形質の血球が約6割の患者で検出される。このPNHタイプ血球陽性例は陰性例に比べて免疫抑制療法が効きやすく、また予後も良いことが知られている。

■診断・鑑別診断
骨髄低形成と汎血球減少を来す他の疾患を除外して初めて診断が確定される。わが国で使用されている診断基準を表1に示す。フローサイトメトリによってPNHタイプ血球の増加が検出され、かつLDH・間接ビリルビンの上昇やヘモグロビン尿などの溶血所見がみられる場合はPNHと診断する。

表1.再生不良性貧血の診断基準(平成16年度改訂)
1.臨床所見として、貧血、出血傾向、ときに発熱を認める。
2.末梢血で、汎血球減少を認める。
成人で汎血球減少とは、ヘモグロビン濃度;男12.0 g/dl未満、女 11.0 g/dl未満、
白血球;4,000/μl未満、血小板;10万/μl未満を指す。
3.汎血球減少の原因となる他の疾患を認めない。汎血球減少をきたすことの多い他の疾患には、白血病、骨髄異形成症候群、骨髄線維症、発作性夜間ヘモグロビン尿症、巨赤芽球性貧血、癌の骨髄転移、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、脾機能亢進症(肝硬変、門脈圧亢進症など)、全身性エリテマトーデス、血球貪食症候群、感染症などが含まれる。
4.以下の検査所見が加われば診断の確実性が増す。
1) 末梢血所見で、好中球減少(1,500/μl未満)があり、網赤血球増加がない。
2) 骨髄穿刺所見(クロット標本を含む)で、有核細胞は原則として減少するが、減少がない場合も巨核球の減少とリンパ球比率の上昇がある。造血細胞の異形成は顕著でない。
3) 骨髄生検所見で造血細胞の減少がある。
4) 血清鉄値の上昇と不飽和鉄結合能の低下がある。
5) 胸腰椎体のMRIで造血組織の減少と脂肪組織の増加を示す所見がある。
5.診断に際しては、1.、2.によって再生不良性貧血を疑い、3.によって他の疾患を除外し、4.によって診断をさらに確実なものとする。再生不良性貧血の診断は基本的に他疾患の除外によるが、一部に骨髄異形成症候群の不応性貧血と鑑別が困難な場合がある。

FAB分類のMDS refractory anemia(RA)、WHO分類のrefractory cytopenia with multilineage dysplasia(RCMD)は骨髄細胞の形態異常によって診断されるが、再生不良性貧血との間に明確な境界がある訳ではないので、形態によって両者を厳密に区別することは困難である。微小巨核球や、pseudo-Pelger核異常を持つ成熟好中球が各系統の10%以上を占める場合には、その後芽球が増加し急性骨髄性白血病に移行する頻度が高いのでMDSと診断する。骨髄細胞に形態異常がみられる場合でも、末梢血中にPNH血球タイプ血球の増加がみられる例は免疫抑制療法に反応して良好な経過をたどることが多いので、再生不良性貧血として取り扱う。

■治療
支持療法
患者の自覚症状に応じて、ヘモグロビンを6-7g/dl以上に維持するように白血球除去赤血球を輸血する。予防的な血小板輸血は抗HLA抗体の産生を促すため、明らかな出血傾向がなければ血小板数が1万/μl以下であっても通常輸血は行わない。好中球数が500/μl以下で感染症を併発している場合にはG-CSFを投与する。

造血回復を目指した治療
治療の対象になるのはstage3以上の重症例か、stage1、2のうち汎血球減少が進行する例である。

Stage1,2に対する治療(図1)

蛋白同化ステロイドの酢酸メテノロンまたは免疫抑制剤のシクロスポリンを用いる。蛋白同化ステロイドは腎に作用してエリスロポエチンの産生を高めると同時に、造血幹細胞に直接作用して増殖を促すとされている。

Stage 3以上の重症例に対する治療(図2)

ウマATG(15 mg/kg/日を5日間点滴)とシクロスポリンの併用療法か、40歳未満でHLA一致同胞を有する例に対しては骨髄移植を行う。ATGはヒト胸腺細胞でウマを免疫することによって作られた免疫グロブリン製剤である。造血幹細胞を抑制するT細胞を排除することによって造血を回復させると考えられているが、作用機序の詳細は分かっていない。シクロスポリンとの併用により、約7割が輸血不要となるまで改善する。成人再生不良性貧血に対する非血縁者間骨髄移植後の長期生存率は60%前後であるため、適用は免疫抑制療法の無効例に限られる。

■予後
かつては重症例の50%が半年以内に死亡するとされていた。最近では、抗生物質、G-CSF、血小板輸血などの支持療法が発達し、免疫抑制療法や骨髄移植が発症後早期に行われるようになったため、約7割が輸血不要となるまで改善し、9割の患者が長期生存するようになっている。ただし、来院時から好中球数がゼロに近く、G-CSF投与後も好中球が増加しない例の予後は依然として不良である。

一部の重症例や発症後長期間を経過した例は免疫抑制療法によっても改善せず、定期的な赤血球輸血・血小板輸血が必要となる。赤血球輸血がたび重なると糖尿病・心不全・肝障害などのヘモクロマトーシスの症状が現れる。また,免疫抑制療法により改善した長期生存例の約5〜10%がMDS、その一部が急性骨髄性白血病に移行し、約10〜15%%がPNHに移行する。


特発性造血障害に関する調査研究班から
再生不良性貧血 研究成果(pdf 25KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

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