難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

家族性突然死症候群(QT延長症候群)/特定疾患情報

診断・治療指針

1. 家族性突然死症候群(QT延長症候群)とは
 突然、脈が乱れて立ち眩みや意識を失う発作が起こる遺伝性の病気です。意識を失う発作が止まらない場合は死亡することがあります。しかし、発作がないときは自覚症状は全くありません。また、検査をしても心電図のQTといわれる波形の部分が正常に比べて長い以外は異常が見つかりません(図1)。このような心電図の特徴からこの病気は「QT延長症候群」と呼ばれています。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
 日本では「QT延長症候群」は数100家系存在すると考えられていますが実態は不明です。

3. この病気はどのような人に多いのですか
 「QT延長症候群」の患者は半数以上が女性です。特に15歳を越えると女性患者の数が多くなります。これは、男性患者が女性患者に比べ最初の発作を経験する年齢が低いためと考えられます。また、この病気には聴力低下を伴うことがあります。そのため生まれつき耳の不自由な方では1,000人に2〜3人の割合でこの病気が見つかると言われています。

4. この病気の原因はわかっているのですか
 現在では2つの原因が考えられています。

 1つは心臓の細胞にあるチャンネルと呼ばれるトンネルの異常です。心臓が規則正しく脈を打つには、心臓の中で命令が正しく伝えられることが重要です。命令を正しく伝えるため、心臓の細胞はチャンネルというトンネルを使ってナトリウムやカリウムなどのイオンを出し入れします(図2)。「QT延長症候群」の患者さんでは、このチャンネルが正常に働かなくなり、命令が正しく伝えられなくなります。脈の乱れが起きやすくなるのはこのためです。チャンネルに異常が起こる原因はチャンネルを作る際に使った設計図の誤り、すなわち遺伝子の異常です。現在では4種類のチャンネルに遺伝子の異常が見つかっています。これら遺伝子の異常は遺伝子診断で診断することができます。しかし、この4種類のチャンネルの遺伝子に異常が見つからない患者さんも多く、他の種類のチャンネルにも異常があるのではないかと考えられます。

 もう1つは心臓に命令をする神経の異常です。この神経は交感神経と呼ばれ背骨の横に左右1本ずつあります。交感神経の役割は心臓に脈を打つように命令することです。正常では左右の交感神経から心臓へ送られる命令はバランスが保たれています。「QT延長症候群」の患者さんでは、左側の交感神経の働きが右側より勝っておりバランスが崩れています。しかし、なぜこのような交感神経のアンバランスが起こるかはわかっていません。

5. この病気は遺伝するのですか
 「QT延長症候群」は遺伝する病気です。しかし、患者さんの中には遺伝がはっきりしない方もいます。「QT延長症候群」の遺伝には2つのタイプがあります。子供4人のうち3人が病気になる優性遺伝と子供4人のうち1人しか病気にならない劣性遺伝です。劣性遺伝の患者さんの場合は、生まれつき両耳の聴力が低下しています。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
 発作が起こらなければ無症状です。発作による症状は立ち眩み、動悸、気分不快などで、ひどい場合には意識を失います。こうした症状は、脈が乱れ心臓が体に血液を送ることができなくなるために生じます(図3)。突然倒れて全身がけいれんすることもあり、周囲の人が「てんかん」と誤ることもあります。発作が止まらない場合、適切な医療処置を行わないと死亡することがあります。また、患者さんの中にはある「きっかけ」から発作を起こす方がいます。この「きっかけ」には運動、精神的な緊張、電話のベル、カミナリやインターホンの音などがあります。女性患者さんの中には生理のときに発作が起こる方もいます。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
 「QT延長症候群」の原因そのものを治すことは現在できません。しかし、発作や突然死を予防するために以下のような治療を行います。

a.薬による治療
 交感神経の働きを抑える薬などを服用します。この薬により突然死はかなり予防できます。しかし、この薬を大量に服用しても発作を予防できない患者さんが約2割います。この場合は次に述べる左側の交感神経の切断が必要です。

b.左側の交感神経の切断
 心臓に命令を送る左側の交感神経を首から胸にかけて切断します。

c.ペースメーカー(図4)
 「QT延長症候群」の患者さんの中には脈が極端に遅い方がいます。このような場合、脈を正常まで速めてやると発作が起こりにくくなります。脈を速くするにはペースメーカーという器械を体に埋め込む必要があります。ペースメーカーは本来、脈が遅くなったり打たなくなったりする病気に使われる器械です。

d.その他
 以上の治療でも発作が起こる場合は、「植え込み式除細動器」なども使います。これは体内に埋め込む目的で作られた小型の電気ショック装置です。脈の乱れが起きたときに脈を正常に戻す目的で使います。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
 発作が起きたことがあるのに治療を受けない場合は突然死する可能性が高くなります。米国での研究によれば最初の発作の後、治療を受けなかった患者さんでは1年後に2割以上の方が突然死で亡くなり、15年後までには半分以上の方が亡くなっています。一方、治療を受けた患者さんでは15年後までに亡くなった方は1割に満たなかったそうです。


情報提供者
研究班名 循環器系疾患調査研究班(特発性心筋症)
情報見直し日 平成20年5月12日

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