難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

難治性ネフローゼ症候群/診断・治療指針

特定疾患情報

■概念・定義
 ネフローゼ症候群は、高度の蛋白尿と、それに起因する低蛋白血症、 浮腫、及び高脂血症を呈した臨床病態である。高度の蛋白尿の原因には、糸球体基底膜の分子篩の障害と陰性荷電の減少(消失)が想定されている。原因疾患により、一次性と二次性に分けられるが、一次性は腎原発の疾患による場合であり、二次性は全身性疾患に続発する場合である。二次性の原因疾患にはさまざまなものがあるが、全身性エリテマトーデス、糖尿病性腎症、アミロイドーシスなどが代表的である。

 ネフローゼ症候群患者の中には治療に難渋する症例が存在する。難治性ネフローゼ症候群は、治療に抵抗し、蛋白尿が軽減せず浮腫が出没して末期腎不全に至ることも少なくない症例の総称であるが、疾患概念は混沌としていた。難治例にはステロイド抵抗性例、ステロイド依存例、及び頻回再発例が含まれており、十分な免疫抑制療法を実施されずに治療を断念された症例も多数存在する。ここでは、一次性ネフローゼ症候群において、副腎皮質ステロイド剤と免疫抑制剤の併用を施行しても、6ヵ月以上の治療期間に完全寛解ないし不完全寛解 I 型に至らないものを難治例と定義した。ただし、実際の治療に当たっては、難治性を見極めるために6ヶ月間初期治療を継続することは問題なこともあり、4〜8週の時点で治療の再検討を図る必要があると思われる。

■疫学
 難治性ネフローゼ症候群患者の出現頻度を検討するために、平成2年度と平成6年度に全国的な横断調査を実施した。小児例の一次性ネフローゼ症候群の原因疾患は、微小変化型ネフローゼ症候群が全ネフローゼ患者の約70%、巣状糸球体硬化症とメサンギウム増殖性糸球体腎炎が約12%、膜性増殖性糸球体腎炎が約2%を占めた。成人例では、微小変化型ネフローゼ症候群が約40%、膜性腎症が約30%、メサンギウム増殖性糸球体腎 炎が約12%、巣状糸球体硬化症が約8%、膜性増殖性糸球体腎炎が約7%を占めた。

 一次性ネフローゼ症候群患者中に難治例の占める頻度は10〜12%であ った。性比(男/女)は1.3〜1.5であり、男性が多い。年齢分布では、 0〜10歳代と50歳代に出現頻度が高かった。小児例の難治例の原因疾患としては、巣状糸球体硬化症、微小変化型ネフローゼ症候群、膜性増殖 性糸球体腎炎、及びIgA腎症があげられるが、巣状糸球体硬化症が約半数を占めた。成人例では、巣状糸球体硬化症、膜性腎症、微小変化型 ネフローゼ症候群、膜性増殖性糸球体腎炎、及びIgA腎症例があげられるが、膜性腎症が約40%、巣状糸球体硬化症が約20%を占めた。

■症状
 ネフローゼ症候群の症状は低蛋白血症に基づく浮腫であるが、長期にわたって低蛋白血症が続く難治性では、血栓症、急激な腎機能障害、感染症などに対する注意も必要である。

(1)浮腫
 程度は様々であり、下腿浮腫や顔面浮腫が初発であるが、高度の場合には胸水や腹水の発現をともなう全身浮腫が認められる。

(2)血栓症
 動脈、静脈のいずれにも生じる危険性があり、とくに高齢者において腎静脈血栓症、脳血栓症などを合併する。

(3)急性腎不全
 低蛋白血症と高度の浮腫による著しい腎血流低下のために急性腎不全を呈することがある。多くの場合このような腎不全は一過性である。

(4)感染症
 ネフローゼ患者は一般的に易感染性であり、難治性のようにステロイドを含む免疫抑制療法が長期に続く場合に、肺炎腹膜炎などを併発する危険性がある。

■検査
 ネフローゼ症候群として3.5g/日以上の尿蛋白の持続、6.0g/dl以下の血清総蛋白の低下または3.0g/dl以下の血清アルブミン低下は必須条件であるが、多くの場合、血清総コレステロール値250mg/dl以上の高脂血症がみられる。また、高脂血症、凝固線溶異常、免疫学的異常に関して以下のような特徴が報告されている。

(1)高脂血症
 総コレステロール値の上昇が主体であるが、中性脂肪(TG)の増加を伴う場合もある。WHO分類のII型のほかにIV型やV型を呈する症例もみられる。低比重リポ蛋白(LDL)と超低比重リポ蛋白(VLDL)の増加、高比重リポ蛋白(HDL)の低下を示す。脂質異常 の発生機序として、(1)肝での代償性アルブミン合成亢進に付随した LDLやVLDL合成の亢進、(2)LDL受容体の活性低下に伴うLDLクリアランスの低下、(3)毛細血管でのlipoprotein lipase活性の低下によるTGの上昇、(4)HDLの尿中への喪失などが考えられる。

(2)凝固・線溶異常
 血小板凝集能の亢進、高フィブリノゲン血症、フィブリン形成の亢進、antithrombinVの低下などがみられる。

(3)免疫学的異常
 免疫グロブリンの減少、高IgE血症、抗体産生能の低下、遅延型アレルギー反応の低下、IL-1及びIL-2産生能の低下、末梢血suppressor-T cellの増加などが報告されている。

■治療
 治療の主体は副腎皮質ステロイド療法であり、種々の免疫抑制薬、抗血小板薬、及び抗凝固薬が併用される。血漿交換療法やLDL吸着療法も試みられている。副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬が長期間投与されることが多いので、副作用には細心の注意が必要である。

 一次性難治性ネフローゼ症候群を示す代表的な腎疾患である膜性腎症や巣状糸球体硬化症については、厚生労働省特定疾患腎障害に関する調査研究班では以下のような治療指針が示された。

(1)膜性腎症
 1. 副腎皮質ステロイドの投与法は、プレドニゾロン40mg/日を4〜8週投与し、4〜8週毎に10 mg/日づつ漸減する。
 2. ステロイド抵抗例(プレドニゾロン40mg/日を4〜8週投与しても完全寛解や不完全寛解T型にいたらない例)には、免疫抑制薬(シクロホスファミド50〜100 mg/日を8〜12週、シクロスポリン1.5〜3.0 mg/kg/日を3〜6カ月、ミゾリビン150 mg/日を3〜6カ月など)を追加する。
 3. 必要に応じ、蛋白尿減少効果と血栓症予防を期待して抗凝固薬や抗血小板薬を併用する。
 4. 高血圧を呈する症例ではアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の使用を考慮する。

(2)巣状糸球体硬化症
 1. 副腎皮質ステロイドの投与法は、プレドニゾロン40mg/日を4〜8週投与し、その後4〜8週毎に10 mg/日づつ漸減する。著しい症状にはパルス療法も考慮する。
 2. ステロイド抵抗例(プレドニゾロン40mg/日を4〜8週投与しても完全寛解や不完全寛解T型に至らない例)には、免疫抑制薬(シクロホスファミド50〜100mg/日を8〜12週、シクロスポリン1.5〜3.0 mg/kg/日を3〜6カ月、ミゾリビン150 mg/日を3〜6カ月など)を追加する。
 3. 必要に応じ、蛋白尿減少効果と血栓症予防を期待して抗凝固薬や抗血小板薬を併用する。
 4. 高血圧を呈する症例ではアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の使用を考慮する。
 5. 著しい高脂血症に対してはLDLアフェレシス(3ヶ月間に12回以内)も考慮する。

■予後
 予後も原疾患によって異なる。以下、膜性腎症と巣状糸球体硬化症の全国調査結果について示す。

(1)膜性腎症
 膜性腎症における腎生存率は10年で89%、15年で80%であり、短期から中期予後は欧米より良好といわれているが、20年腎生存率は59%に低下しており、わが国でも膜性腎症の長期予後は必ずしも良好とはいえない。しかし、膜性腎症の発症が高齢者に多く、次に述べるように高齢が危険因子となっている事実も考慮する必要があろう。

 腎不全に至る危険因子の多変量解析では、初診時の臨床所見として、男性、60歳以上、血液尿素窒素(BUN)高値、および血清クレアチニン(Scr)高値(1.5mg/dl以上)が有意である。また、腎生検所見では、糸球体数の20%以上に分節性硬化を認めること、および標本の20%以上に間質病変を認めることが有意となる。

(2)巣状糸球体硬化症
 巣状糸球体硬化症における腎生存率は、5年で85.3%、10年で70.9%、15年で60.9%、20年で43.5%とほぼ直線的に低下しており、膜性腎症より不良である。

 腎不全に至る危険因子についての多変量解析では、Scr高値(1.5 mg/dl以上)が臨床所見で唯一有意であり、腎生検所見では、尿細管間質病変の重症度だけが有意である。

 治療や予後の詳細については日本腎臓学会誌44巻751ページ(2002年12月発行)に掲載されており、日本腎臓学会のホームページ(http://www.jsn.or.jp/)でも見ることができる。なお、膜性増殖性糸球体腎炎の予後も不良であり、症例の約50%が透析に至るといわれているが、病因による違いを考慮する必要がある。


 進行性腎障害に関する調査研究班から
 研究成果(pdf 44KB)
 この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

情報提供者
研究班名 腎・泌尿器系疾患調査研究班(進行性腎障害)
情報見直し日 平成19年6月9日

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