難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

甲状腺ホルモン不応症/診断・治療指針

特定疾患情報

■概念・定義
 甲状腺ホルモン不応症とは,甲状腺ホルモンに対する標的組織の反応性が低下した病態であり,基本的には甲状腺ホルモン(T3)受容体の異常によるものと考えられている。血中甲状腺ホルモン(T4,T3)が高値にもかかわらず,TSHが不適切な分泌状態(上昇又は抑制されない)が存在することより,広義には不適切分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion for TSH;SlTSH)と呼称されている。本病態のうち,末梢組織と下垂体の両方に障害のあるため血中甲状腺ホルモンは高値にもかかわらず末梢代謝状態は正常ないし低下する全身型と, 稀に末梢に不応症がなく下垂体のみが選択的に障害されているため,一見TSH産生腫瘍と鑑別のつきにくい下垂体型がある。

■疫学
 全身型甲状腺ホルモン不応症は1990年Refetoffらの報告では205症例であり,大部分は家族性(47家系,181症例)である。遺伝形式は多くの症例では常染色体性優性遺伝である。下垂体型は全身型より少なく,文献上32症例のみである。1994年の橋爪らの記載では世界中で140家系350例があり,そのうち約半数が最近5年間に報告されている。本邦では,1992年の山下らの全国調査において,全身型は家族性が5家系14症例,家族性が明らかでないものが8症例(計22例),下垂体型は14例(すべて孤発例)であった。本邦の発見時年齢は5〜51歳と広範囲で,男性14例,女性22例で男女差は明らかでない。

 全身型,下垂体型とも,近年,疾患に対する関心の高まりにつれて報告数は増加しており,学会報告も入れると、総数50例以上と推定される。発症頻度を出生1〜3万人に1人と推測している報告もある。末梢型の報告は現在までに世界で1例のみである。

■病因
 ホルモン不応症の原因としては,(1)不活性型ホルモン分泌,(2)活性型ホルモンヘの転換の異常,(3)細胞内ホルモン移送の異常,(4)ホルモン受容体の異常,(5)受容体以降のシグナル伝達の異常などが考えられる。

 本症の原因としては以前からT3受容体の異常が想定されてきた。しかし蛋白レベルの研究では証明することはできず,受容体の異常が証明されたのはT3受容体遺伝子が同定されてからである。T3受容体をコードする遺伝子は,α‐受容体が第17染色体に,β‐受容体が第3染色体に存在することが分かり,更に癌原遺伝子c‐erbAがT3受容体をコードすることが発見され,c‐erbAβ甲状腺ホルモン受容体遺伝子の異常が不応症の原因であることが報告され,多くの患者について遺伝子の解析がなされた。前述の140家系のうち約1/3については遺伝子解析がなされており,c‐erbA1β遺伝子の異常が発見されている。本邦では12家系について遺伝子異常が確認されており,異常T3受容体の機能解析もほとんどの症例で行われている。

 現在まで報告されている原因遺伝子異常はすべてβ1型である。ほとんどはアミノ酸置換による点突然変異であり,エクソン7,8のhot spotに集中している。つまり,T3結合部位の異常が本症の本態であり,現在のところ標的DNA結合部位の異常は報告されていない。変異β1−受容体が同定された症例では,ホルモン結合能や標的遺伝子の発現調節能が低下あるいは欠失しており,変異は機能損失型のものである。

 本症は常染色体性優性遺伝形式であることより,患者は正常と異常のβ‐受容体遺伝子をもつヘテロ接合体である。正常遺伝子をもちながら表現型が異常となる理由として,変異受容体が正常受容体の機能を阻害するとの報告もあるが,その機序は完全には解明されていない。

■治療
 本症の大部分は遺伝子異常に基づく疾患であるため,原因に対する治療法はなく,対症療法を必要に応じて行う。全身型の多くは甲状腺機能正常のことが多く,その場合は治療の必要はない。甲状腺機能低下症状を呈する場合は甲状腺ホルモンの補充を行う。必要量は症例ごとに異なるので少量から投与を開始し,末梢代謝機能を表す指標をモニターしながら至適維持量を決定する。

 下垂体型の場合が難しい問題を含んでいる。下垂体TSH産生腫瘍が除外されれば,甲状腺機能亢進症に対する積極的治療が必要であるが,抗甲状腺剤の投与により甲状腺ホルモンレベルを低下させると,TSH分泌は更に促進され,甲状腺腫の増大,TSH産生細胞の過形成から腺腫形成へ進展する可能性がある。理論的には,TSH分泌を低下させることにより,甲状腺ホルモンレベルを下げるべきである。TSH分泌を抑制する薬剤としてドーパミン作働薬のブロモクリプチン,ソマトスタチン誘導体,Triac(T3誘導体)などが試みられているが,まだ治療法の確立には至っていない。

 小児の患者では特に注意が必要であり,骨の成長,精神発達などに注意しながら慎重に投与量を決定する必要がある。

■予後
 国際的にも正確な予後調査についての成績はなく,今後の実態調査に基づく解析が必要である。


ホルモン受容機構異常に関する調査研究班から

甲状腺ホルモン不応症 研究成果(pdf 33KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

情報提供者
研究班名 内分泌系疾患調査研究班(ホルモン受容機構異常)
情報見直し日 平成20年5月21日

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