難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

甲状腺ホルモン不応症/特定疾患情報

診断・治療指針

1. 甲状腺ホルモン不応症とは
 甲状腺という部分がのどぼとけの下にあって、蝶々が羽を広げた形をしています。

 ここでヨードという物質を基にして甲状腺ホルモンという物質が作られています。このホルモンは、心臓や肝臓や脳に働いて身体の新陳代謝を調節するのに大切な働きをしています。バセドウ病という病名をお聞きになった方もあるかも知れません。この病気は甲状腺ホルモンが多すぎる病気(甲状腺機能亢進症)で、暑がりになり、動悸が激しくなったり汗かきになります。逆にこのホルモンが少なくなると、寒がりになり、脈拍は少なく、汗が減って皮膚が乾燥してきます(甲状腺機能低下症)。甲状腺ホルモンは発育にとっても大変大切で、出産を経験された方は新生児の甲状腺機能低下症を早期に見つけるための乾燥濾紙血液で行うスクリーニング検査をご記憶かもしれません。

 このように甲状腺ホルモンはとても大切で、多すぎても少なすぎても問題がおこるため、その血液中の濃度は頭の中にある脳下垂体というところで自動的に管理調節されています。これからお話する甲状腺ホルモン不応症というのは、甲状腺ホルモンは体の中にたくさんあるのに、奇妙なことにホルモンの働きが鈍くなる病気です。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
 これは世界的に見てもまれな病気です。日本全国では約50人ほどの患者さんがおられると考えられています。

3. この病気はどのような人に多いのですか
 特に男性に多い、女性に多いということはありません。この病気は後に述べるように先天性の病気です。子供のころから異常を示す場合もありますが、大人になって初めて症状が出るというケースもあります。

4. この病気の原因はわかっているのですか
 甲状腺ホルモンが体の中で働くには、細胞の中にある特別な甲状腺ホルモン受容体という蛋白質に結合しなければなりません。この病気は、甲状腺ホルモン受容体に遺伝的な異常があると考えられています。甲状腺ホルモン受容体以外の異常でも同じ様な症状が出る可能性はあるようですが、まだ確認出来ていません。

5. この病気は遺伝するのですか
 遺伝性の病気で常染色体優性遺伝という形で子孫に伝わることが多いようです。具体的には両親のいずれかがこの病気であると約2分の1の確率で子供に伝わります。

 しかし両親のいずれにもこの病気がなくて、突然変異によって子供に病気が出ることもあります。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
 すでに述べたようにこの病気は甲状腺ホルモンの作用が弱まるはずです。ところがその分、脳下垂体が甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンの濃度を普通よりも高く設定します。その結果、甲状腺ホルモン受容体に比較的軽い異常があっても、甲状腺ホルモンの濃度が高いためにそれが働きの鈍さを補って、全身の新陳代謝はほぼ正常人に近くなることが多いのです。ただどうしても甲状腺に負担がかかるため、正常の人に比べ甲状腺が大きくなる傾向があります。異常の程度が強くなると、甲状腺機能低下症の症状が見られたり、あるいは部分的に甲状腺機能亢進症に似た症状を来すこともあります。異常がとても強い患者さんの中には、難聴を来したり、注意力低下といった精神障害を伴うこともありますが、それがおこる理由は不明です。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
 ほとんどの患者さんは、特に治療を受けなくても正常の人と変りない生活が送れます。むしろ問題は、この病気の存在がまだ一般の医師の間でもあまり知られていないことです。そのため、甲状腺が腫れていて血中の甲状腺ホルモン濃度も高いということで、バセドウ病と誤診され、誤った治療が行われてしまう可能性があります。欧米の統計では、本症患者の3分の1以上が初めバセドウ病とまちがえられ不適切な治療をうけていた。その意味で、この病気は治療以上に正しく病気を認識することが大切です。

 前に述べたように、甲状腺機能低下症の症状が見られる場合は甲状腺ホルモンのお薬が必要になります。どのように治療するかは個人差が大きいため、この病気に詳しい甲状腺の専門家に相談することが必要です。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
 最近はっきりしてきた病気のため、追跡調査のデータは乏しいのが現状です。平均寿命についてもまとまった報告はありません。ただ大部分の患者さんは特に薬を使うことなく正常の人と同じ様に暮らしておられます。このような患者さんでは、甲状腺ホルモンが多くあることと甲状腺ホルモン受容体の機能が低下していることが、うまくバランスがとれていると考えられます。このような患者さんでは、数カ月から1年に1、2回、診察と検査を受けて頂いて、経過を見ることになります。

 異常の程度が強くて、例えば小児期から重い甲状腺機能低下症状を来すような患者さんも、ごく少数ですがおられます。その様な場合は、不可逆的な発育障害を起こしてしまうことがあります。逆に子供の時は正常で、大人になってから甲状腺機能異常を来し適切な治療が必要となる場合もあります。


情報提供者
研究班名 内分泌系疾患調査研究班(ホルモン受容機構異常)
情報見直し日 平成20年5月21日

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