■概念・定義
TSH受容体は甲状腺濾胞上皮細胞膜に存在する甲状腺特異蛋白である。1989年のcDNAクローニングにより,遺伝子工学的手法が導入され,合成ペプチド,受容体蛋白の大量発現,変異蛋白の作製による蛋白の構造・機能の研究が可能になってきた。
TSH受容体が自己免疫性甲状腺疾患における自己抗原として病因に関与しており,特にTSH受容体に対する自己抗体は甲状腺を刺激して甲状腺機能亢進症(バセドウ病)を起こすものと,TSHの作用を阻害して甲状腺機能低下症を起こすものが判明している。
これに対して,TSH受容体自体の異常に基づく甲状腺機能異常症の存在も近年報告されている。受容体異常症としてはTSH受容体の変異により機能亢進と機能低下という相反する2つの病態を示す疾患がそれぞれ報告されている。
甲状腺機能亢進症を呈するものとして,自律性を持つ機能性甲状腺腫(機能性甲状腺腺腫(プランマー病),中毒性多結節性甲状腺腫),甲状腺機能低下症として常染色体性劣性遺伝形式をとる先天性原発性甲状腺機能低下症において,TSH受容体変異が発症機序の1つと推定されている。受容体異常症の確定診断にはTSH受容体遺伝子の解析によるmutationの証明が必須である。
■疫学
機能性甲状腺腺腫(プランマー病)の日本における発生頻度は極めて低く,甲状腺機能亢進症全体の0.3%であり,これに対して米国約2%,イギリス約5%,ドイツ,スイスは33%という報告で,地域差が非常に大きく,欧州,特にアルプス地方に多い,ヨード摂取量の低い地域で発生頻度が高いようである。
常染色体性劣性遺伝形式をとる先天性甲状腺機能低下症における病因の1つとしてのTSH受容体異常は,現在まで世界からの報告を合わせても15例程度と極めて稀である。最近わが国でも5例の報告がみられている。
■病因
機能性甲状腺腫の一部の症例において,TSH受容体の第3細胞内ル ープから第6膜貫通領域を好発部位(hot spot)とする変異(oncogenic mutation)が欧州から相次いで報告された。検出率は報告により異なるが,8〜82%と高頻度に検出されている。これに対して日本の症例(プランマー病38例,中毒性多結節性甲状腺腫7例)では,従来変異はみつからないとされていたが、最近小杉らにより本症の44%(11/25例)に活性型体細胞変異が見出されている。
一方,Gsαの変異については,欧米から25〜40%の頻度が報告されているが,本邦からの報告ではわずか4%(1/28)である。 上記のように,変異TSH受容体あるいは変異GsαによりTSHの結合なしに持続的に甲状腺が刺激され続けるため,機能性甲状腺腫が形成されるプロセスが推測されている。
TSH不応症に基づく先天性特発性甲状腺機能低下症の報告は稀であるが,最近鬼形らの報告も含め、わが国でも5例が報告されている。TSH不応症をきたす病因としては,TSH受容体の構造異常の他にもGsα欠損,c‐AMP以後のシグナル伝達の異常が推測されているが,末だ証明はされていない。
■治療
機能性甲状腺腺腫に対しては手術による腺腫摘出,あるいは131 I 治 療によるアイソトープ治療が行われる。高齢で手術や131 I 治療が選択できない場合は抗甲状腺剤の投与が行われる。我が国では一般に手術が, 欧米では131 I 治療が第1選択となっている。
TSH不応症による甲状腺機能低下症に対しては,甲状腺ホルモン補充により甲状腺機能正常化をはかる。
ホルモン受容機構異常に関する調査研究班から
TSH受容体異常症 研究成果(pdf 29KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。
情報提供者
研究班名 内分泌系疾患調査研究班(ホルモン受容機構異常)
情報見直し日 平成20年4月25日
メニューに戻る